ハラスメント対策最前線コロナパンデミック・DX時代の雇用と法律問題(7)

外国人労働者の就業状況

Q少子高齢化の影響の中で、再び外国人労働者に焦点が当たっていますが、どんな問題がありますか?
A外国人労働者に関しては、さまざまな問題がありますが、まず、外国人労働者の就業状態からみてみましょう。

1.外国人労働者の就業状況

2022年の外国人労働者数は過去最高の180万人を更新しており、伸び率では、中国人はほぼ横ばいなのに対して、ベトナムが2015年から急増しています。ベトナムは海外への出稼ぎが珍しくなく、日本よりも賃金が低いことから日本で働くことを選ぶ傾向にありますが、近年賃金格差が縮小し、日本で働く選択は減ることが予想されます。産業別にみると、製造業が27%と最も多く、次いでサービス業15%、卸・小売業13%となっていますが、以下に述べる通りさまざまな社会問題が発生しています。
日本の場合、外国人が日本で就労するには、入管法等で定められた在留資格(27種類)の範囲内で、就労することが義務付けられ、それに違反すると不法就労として強制退去の対象となります。その結果短期滞在と偽って来日して不法就労したり、後述する通り技能実習生が失踪したりするケースが跡を絶ちません。

2.「技能実習制度・特定技能制度」の問題点

(1)約30年前から技術移転による国際協力の推進を建前に、技能実習制度がはじまり、特に人手不足が深刻な分野(12分野)である介護、農業、漁業、宿泊・外食業などの分野を対象に、人材確保を目的として、近年(2019年4月から)新たに「特定技能」が創設され、今や私達は技能実習生を、コンビニや居酒屋などで日常的に目にするようになっています。
技能実習生は、やむを得ない事情がある場合を除いて3年間は勤務先を移動できず、住居は雇用主によって用意されるため、実質的な住み込み労働となっており、職業選択の自由や居住移転の自由が制約されています。それに加えて雇用主の最低賃金違反、契約賃金違反、賃金からの過大控除、残業代不払等が恒常化し、これらは技能実習生の失踪原因の半数を占めているのです。

(2) 私生活の自由への制約も深刻で、雇用主が実習生の恋愛を禁止することも少なくなく、入国に際して、妊娠しないという契約書や婚姻したら帰国するという誓約書にサインさせられることも多く、妊娠を理由に契約違反として強制的に帰国させられたケースもあります。
職場環境の不整備による差別やいじめがさまざまな形で発生しており、日本語が通じないからという理由で雇用主が実習生を暴力で「指導」したり、暴言や差別用語で精神的な攻撃をしたり、宗教上の行為を不当に制限する(特にインドネシアなどは世界最大のイスラム教徒の国)などのパワハラや暴力行為の発生が日常化しているのです。

3.今後に向けて

(1) 技能実習制度については、わが国では、かねて「『人』というよりも流通する『モノ』として扱われる状態を生み出しており、憲法に照らして許されない制度」と批判されてきました。これに対しては、国も悪質な人権侵害等に対して、法務局などが雇用主に対して注意を喚起しており、厚労省も、ハラスメントに関するリーフレットを雇用主に通達したり、さらに妊娠した技能実習生の定期的な病院受診等を支援すべく「技能実習生が妊娠等した場合の基本フロー及び手続」等のリーフレットを雇用主等に通知する等さまざまな行政指導を行っています。

(2) しかし前述した通り、これらの行政指導のみでは深刻な人権侵害対策としては全く不十分であり、技能実習制度に内在する人権制約は、仮に日本人間であれば許されないものであり、実習生と雇用主の私人間の問題であると同時に、制度を設けた国の責任も問われるべき問題なのです。
2023年11月に技能実習制度の見直しに向けて、政府の有識者会議が提出した報告書では、外国人労働者の人権保障が唱われており、政府はこれを受けて技能実習制度を廃止し、新たな育成就労制度を導入する予定と報道されていますが、外国人の人権が十全に保障されるよう、私達も注視していく必要があります。

(2024年4月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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