ハラスメント・インサイトAIにはない「人らしさ」について

AIにはない「人らしさ」について

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

これまでの連載はこちらをご覧ください。

ここ最近、生成系AIの話題を毎日のように目にします。その代表ともいえるChatGPTは、昨年末から世界を席巻しており、皆さんも試したことがあることでしょう。大抵の質問には答えてくれますし、知らない、わからないことについては素直にそれを認めるところも愛嬌があります。どのようにビジネスシーン生かしていくのか、検討するべき課題もたくさんありますが、既に実用化に向けた実験している企業や職場も多いのではないでしょうか。

そんな中、私は反対にAIにはない「人らしさ」について考えていました。ビッグデータを基に模範解答を常に創作するAIは、既存の情報から得られる最大公約数という意味で、どのような背景であろうともある程度は当てはまる回答として、一般論を展開するうえで最強のツールでしょう。これを一人の人間が行うことは不可能で、競合となるのはWikipediaのような多くの人が書き換え可能な百科事典かもしれません。実際、つい最近オープンAI社の社長が世界各国のAI規制に対して、Wikipedia型モデルを想定しているということもニュースになりました。

しかし、過去の情報の集合体であるこれらのシステムは、「今、ここで、個別に」起こっていることへの対峙についてはどうでしょうか。将棋の藤井聡太さんはAIでのシミュレーションを基に研究を続け、先日七冠を達成しましたが、実際の対戦相手は生身の人であり続けます。その勝率は上がってもすべての試合に完勝しているわけではありません。この「完璧ではない」「時々失敗する」「間違ってしまう」というのが、人であることの最大の価値、魅力であり、偶然とも呼べる失敗から大ヒット商品やサービスが数多く生まれているのも周知の事実です。

ハラスメント問題も、個々の問題は似て非なるもので、その対応も無限に存在します。似たような事例をまとめた最大公約数の対応例を共有することで、迅速な問題解決につながることも増えていく一方で、目の前の当事者は生身の人間で、その時の体調や、気候や、状況によって気分や考えも柔軟に変化する、唯一無二の存在です。AIとの共存を探るにあたって、ハラスメントフリーな職場を目指す私たちがこれから磨いていく必要があるのは、「目の前の人との交流から得られる信頼関係を、どうやって維持していくか」ということだと感じています。ビッグデータに負けないくらい大切なことを、私たち一人ひとりが考えて、行動化していきたいですね。

2023年6月

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