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ハラスメント対策最前線コロナパンデミック・DX時代の雇用と法律問題(10)
労働力不足の社会でのAI・AGIの活用
- Q労働力不足の社会でAI・AGIはどこまで労働力となるのでしょうか(人間とAGIの共存への道を模索したいです)?
- A国際労働機関(ILO)は2025年5月20日、生成人工知能(AI)と雇用に関する報告書を発表していますが、その中で世界の雇用の4分の1が生成AIの影響を受ける可能性があると指摘しています。
労働分野では、生成AI自体の良し悪しではなく、技術普及に伴う管理方式に大きく左右され、とりわけ高所得国では、事務職が直面するリスクが最も顕著であり、女性職やメディア、ソフトウエア開発、金融などの高度にデジタル化された雇用も、リスクに直面するとされています。ちなみに2024年のILOの報告書では、人工知能(AI)の普及などで生産性が向上するものの、労働者への恩恵が十分でなく、また生成AIの進歩により、さらに格差が拡大しかねないとの懸念が示されていました。
1.生成AI(人工知能)
現在世界的に生成AIを搭載した「AIロボット」がブームとなっており、工場や作業場での労働、家事や接客、農業、高齢者のアシストをこなすサービスロボットへの期待が高まっています。今年4月北京で開催されたハーフマラソンに21体の人工ロボットが参加し、そのうち6体が完走して注目されました。このようにロボット技術の発展はめざましく、例えば体操選手のように側転やバク転を披露したり、双腕ロボットが洗濯物をたたんだりする様子が公開されたりしています。ロボットの動きが格段になめらかになっている直接の要因は、AIのロボット化の進展です。あらかじめデータで学習したロボット向けのAI基盤モデルで動作を生成したり、正しい動作を試行錯誤の中でさばける「強化学習」や、人間の動作をまねさせる「模倣学習」など、複数の関連技術を組み合わせたりして活動しているのです。
またChatGPTやDeepSeekの対話型AIが、レポート作成に寄与し、事務労働の簡素化に役立っています。例えば、弁護士や税理士と依頼者などが情報交換やレポート作成などを通してコミュニケーションを進展させることに役立っています。このようなAIは「特化型」と言われるように、1つ若しくは数種の機能にいわば特化したAIです。したがってAGIや人間のように発展的・自律的に学習する知識や思考回路をもち、自己学習を繰り返して経験のない事実にも柔軟に対応でき、感情などを理解して行動できるものではありません。
しかしAGIもAIの一種であり、日本では「汎用人工知能」などと言われています。AGIは、現在まだ実現されていませんが、AIの最終目的とされ、実現すれば社会に大きな影響を与えるものとなるでしょう。経産省は2018年の「DXレポート」で、「2025年の崖」や「2040年問題」を指摘し、このままでは企業や社会の競争力を維持することが困難となり、特に労働力不足が一層明らかとなることを指摘していました。
2.AI・AGIの未来
多くのAI開発最前線の人々や研究者達はAGIは5年以内に実現する(2025年の崖はあと数年で突破できるというものです)と予想しています。その時、どのような社会が出現するでしょう。最も大きな影響は経済分野、とりわけ人々の働き方への影響であり、「労働市場の大変容」が考えられるでしょう。AGIがあらゆる人間労働に置き換えられるようになれば、人間労働の中心にある肉体労働の大半はAGIに置き換えられ、他方新しい職種の出現の可能性、実現性は乏しく、一体どの様な職業が生まれてくるか、予測もつかない状況です。
このため、雇用が大幅に失われる場合、これを補うものとして、いわゆるベーシック・インカム(BI)や、サービス(BS)の導入などによる経済システムの再構築が必要となり、その場合は人々の格差の拡大は今よりも激しくなることが予想されます。また企業や大学などでは、新たな研究や製品開発が加速度的に進展することが見込まれています ― これまでも例えばAIは「病気治療のための新抗体」や「空気中の二酸化炭素を吸収する新素材」などを開発しています。AGIにより、これらの競争はさらにスピードアップされ、開発企業は莫大な利益を上げることが出来るようになるでしょう。
さらに世界の地政学的な勢力圏を大きく変えることも考えられます。今春トランプ政権が立ち上げた、AGI開発のインフラデータセンターであるスターゲート計画(第二次世界大戦中のマンハッタン計画に匹敵する新たな国家戦略)を提唱しており、いわば新たな米中対決の火だねともなりかねないものです。AIの未来は人類の未来と共に不確実なものといえるでしょう。
(2025年5月)

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業
「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)
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