社外相談窓口

ハラスメント対策最前線ハラスメント関連の判例解説(27)

海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)ほか事件

難解な判例もわかりやすく解説!成蹊大学法学部教授 原 昌登 先生による職場におけるハラスメントに関する判例解説です。
これまでの「ハラスメント関連の判例解説」はこちらをご覧ください。
ハラスメント関連の判例解説new

東京地判令和2・3・3労判1242号72頁

【テーマ】いまやSNSはハラスメントの証拠として欠かせません。

1.概要

今回は、派遣社員に対する会社役員らのセクハラ行為が、被害者と同僚のSNS(LINE)のやり取り等から事実として証明された事件を紹介します。

2.事案の流れ

派遣社員として平成27年1月からY1社で勤務していたXは、Y1社の執行役員Y2、取締役Y3から、平成27、28年に下記3のようなセクハラ行為を受けたとして、慰謝料の支払い等を求めて平成30年に訴訟を提起しました。Y2、Y3に対してはセクハラ行為が不法行為(民法709条)に当たるとしてそれぞれ400万円を、Y1社、それからXをY1社に派遣していた派遣会社Y4社に対しては、就業環境配慮、整備義務(本連載第14回〔ツクイほか事件〕等でも出てきた「職場環境配慮義務」と同じ内容です)に違反したとして、Y1社に200万円、Y4社に400万円を請求しました。
なお、平成29年6月にXは親しい同僚のAらと労働組合を結成するのですが、労働組合の活動にY1社の株主企業の情報を無断で使用するなど、就業規則違反(情報漏えい)を行ったことを理由に、平成29年11月末で派遣契約が終了とされました。Xは、契約の終了は労働組合の活動を理由とする不利益な取扱いを禁止した「不当労働行為」(労働組合法7条)に当たり許されないとも主張しましたが、裁判所は、契約の終了は情報漏えいが理由であり、禁止される「不当労働行為」ではないとしてXの主張を退けたため、その部分については紹介を省略します。

3.ハラスメント行為

平成27年7月の歓送迎会の終了後、駅のホームでY2がXの肩に触れた(肩に手を回した)行為、平成28年7月のY3、Y1社監査役らとの懇親会の場で、Y3が「当たり!!ワインディナー with 監査役(交換不可)」、「ハズレ!!罰ゲーム 監査役に手作りプレゼント」、「映画 with CIO(交換可能)」(CIOとはY2のことです)などと書いて封筒に入れたくじを、Xを含む女性従業員らに1人2、3枚引かせた行為が、それぞれセクハラ行為と認められました。

4.裁判所の判断

まずY2について、Xは肩に触れられた、Y2は触れていないと、2人の供述は真っ向から食い違っていました。裁判所は、歓送迎会の解散直後、同僚A(AはY2に太ももを触られたと述べています)とXが、SNS(LINE)で、A「Xは大丈夫だった?」X「私は大丈夫です、肩触られたくらいです」などとやり取りした内容に不自然、不合理な点はないとして、Y2が肩に触れたことは事実であると認めました。そして、Y2がXの意思に反して複数回その身体に接触したことは、Xの人格権を侵害する不法行為に当たると判断しました。
次にY3について、くじ引きという形式は、諾否の意思を示す機会がないまま記載内容の実現を強いられると感じるものであり、結局、監査役の接待を主な目的として、Xの意思にかかわらず業務と無関係の行事に監査役やY2と同行することなどを実質的に強制しようとするもので、やはり人格権を侵害する不法行為に当たるとしました。
他方で、Y1社の責任については、平成28年7、8月にXがセクハラ行為について相談窓口(社外ホットライン)へ通報した後、速やかに調査を行い、Y3に厳重注意をしたこと(なお、Y2はすでに退職していました)などから、就業環境配慮、整備義務違反はなく、Y4社についても、XはY4社の担当者に相談はしたものの、(Y1社の調査結果を待つ、などとして)Y4社に具体的な措置を求めなかったなどから、同じく義務違反はないとして、Y1社、Y4社ともに賠償責任を否定しました。
結論として、Y2、Y3に、Xへの慰謝料としてそれぞれ5万円の支払いを命じました。

5.本判決から学ぶべきこと

まず、被害者と同僚のSNS(LINE)のやり取りを証拠として、セクハラ行為の存在を認定した点が注目されます。加害者と被害者のやり取りだけでなく、被害者と同僚等とのやり取りもハラスメントの証拠になりうることをしっかり確認しておきましょう(同様に、被害者と友人や家族とのやり取りも証拠になりうるといえます)。
なお、裁判所は、LINEの内容について「Xがねつ造したとの疑いが差し挟まれるような、過度に具体的あるいは不自然に詳細な内容のものはない」と述べています。加害者が書いたもの以外を証拠とする場合、ねつ造などの可能性にも気を配る必要がありますが、「過度に具体的」「不自然に詳細」な場合はねつ造の可能性もあると裁判所が考えている点も、実務対応の参考になるでしょう。
もう一点、セクハラ行為及び加害者の責任を認めつつ、会社側の責任を否定した点も目を引きます。一般論でいえば、職場のハラスメントでは会社側の責任も肯定されることが多いです。今回は、特にY1社がXの相談を受けて迅速に対応したことが評価されました。ただ、迅速な対応はもちろん重要ですが、だからといって会社が常に免責されるとは限りません。そもそも今回のケースは、セクハラか否か判断に迷うような、その意味で防止が難しいようなケースではなく、研修を重ねることで防止しうるような、まさに典型的なセクハラといえるケースでした。会社としては、引き続き、研修の充実など周知・啓発に努めることが重要といえますね。

(2021年8月)



プロフィール

原 昌登(はら まさと)
成蹊大学 法学部 教授
1999年 東北大学法学部卒業
専門分野 労働法

著書(共著)

労働法のわかりやすい入門書(単著)として原 昌登『コンパクト労働法』(新世社、2014年)。ほか、共著として水町勇一郎・緒方桂子編『事例演習労働法(第3版)』(有斐閣、2017年)など多数。

論文(単著)

「職場のパワーハラスメント防止対策の選択肢と意義」労務事情2018年6月1日号34頁
「パワハラ対策の意義と課題」成蹊法学88号(2018年)282頁など多数。

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