LGBTQからダイバーシティ&インクルージョンを考える第10回 「カミングアウトしろ/するな」はNG:SOGIハラ対策の現場運用

第10回 「カミングアウトしろ/するな」はNG:SOGIハラ対策の現場運用

労働施策総合推進法の改正が予定されている中、「ハラスメント防止指針」の中では、SOGI(性的指向・性自認)に関するハラスメント対策の強化も盛り込まれ、企業により一層の実務対応が求められます。今回は、1月に出された諮問答申の内容もふまえ、取り組みを進めるべき事項を整理します。

「カミングアウトさせる/させない」もハラスメントに

現在も、誰かのセクシュアリティを当人の許可なく第三者に暴露する「アウティング」はパワーハラスメントに該当しうる旨が示されています。今回の改正では、カミングアウトするように強要することや、カミングアウトをさせないようにすることも、パワハラにあたりうることが示されました。
大切な前提として、カミングアウトするかどうか、する場合、いつ、誰に、どのように伝えるかは、本人だけが決める権利のあることです。他の機微な個人情報について考えてみると想像しやすいでしょう。病気の治療、妊娠、親の介護等と同様に、重要で機微性の高い情報であり、本人の意思決定を尊重するべき事項です。
しかし、実際には、職場や上司から、本人の意思とは異なる対応を迫られているケースがあります。
(※実際のケースを元に、個人情報が分からないよう編集を加えています。)

<ケース1>「周囲に言わないと、休みは認めない」
同性パートナーの登録制度が導入され、福利厚生の対象となっている会社に勤務。パートナーの父親の介護が必要になり、介護休暇を申請することに。社内規程上で、上司への申請と承認が必要だったため、上司にのみカミングアウトした。すると、「長く職場をあけることになるのだから、他の部署のメンバーにもカミングアウトしないと、休みは認められない」と言われた。

<ケース2>「特別対応に見えてしまうから、全員にカミングアウトして」
入職時には「女性社員」として採用された、トランスジェンダー男性。新入社員の合宿研修を前に、人事部担当者にカミングアウトし、一人部屋を希望する旨を伝えたところ、「1人だけ特別対応していると思われるといけないから、新入社員のオリエンテーション中に全員にカミングアウトするように」と指示された。

いずれのケースも、本人が希望していないのであれば、周囲には情報を共有せずに対応することが望ましいです。ケース1であれば「家族の事情で」という説明に留める、ケース2については「事情によって個別対応も相談可能」と新入社員全体に周知した上で、プライバシーを尊重して理由については一律で開示しないこととする、といった対応が考えられます。どうしても本人の開示が必要な場合には、「なぜ必要なのか」「代替案はないか」を丁寧に説明し、本人にとって最良の選択肢を探す対話が求められます。「このような条件が揃えばカミングアウトしたい」など、職場の環境調整が鍵となる場合もあります。

<ケース3>「クライアントを担当している間はカミングアウトしないように」
社内では同性パートナーがいることをカミングアウトしており、プロジェクトで協働することになったクライアントにも、折を見て伝えたいと考えていた。しかし、上司から「お客様が混乱されるだろうから、クライアントを担当している間はカミングアウトしないように」と言われ、結果として、「パートナーはいない」と嘘をつき続けることになった。パートナーが感染症に罹患し、自身も濃厚接触者となったため現場に行けなくなった際も、「自分の体調不良で」と言わざるを得なかった。

本人は「伝えたい」と思っていたのに、上司が“させなかった”ケースです。「カミングアウトしてはいけない」と言うこと自体が本人の尊厳を否定する行為であるだけでなく、話せる情報が限られることで、事実が伝えられず業務上支障が出る、人間関係の構築が難しくなるといった二次的な不利益につながります。本人がカミングアウトを望む場合は、事前の研修や情報提供、場の設定等の希望についてコミュニケーションをとり、円滑に進むようサポートできるとよいでしょう。

カスタマーハラスメントでもSOGIハラ対応を

もし、顧客から、自社の営業担当の社員について「オネエっぽくて嫌だから、別の担当者にして」と言われたらどう対応しますか?
これは、特定の性のあり方を揶揄的表現で否定している点でSOGIハラであるだけでなく、差別要求型のカスタマーハラスメントと捉えて対処する必要がある事例です。顧客の希望を通してしまうと、業務とは関係のない「好み」の問題で従業員の就業機会を奪うこととなり、企業として差別を追認したということにもなりかねません。
今回の指針素案では、カスハラになり得る言動例として、精神的な攻撃(人格否定等)に「相手の性的指向・ジェンダーアイデンティティに関する侮辱的な言動を行うことを含む」と明記する整理が示されています。「女性ではなく男性を出せ」「外国人に対応されるのは嫌だから別の担当者を」といった要求と同様に、企業は毅然と対応し、従業員の尊厳と安全を守る方針を明確にする必要があります。

もちろん企業には安全配慮義務があります。否定的な言動が継続し、危険性が高い場合には、従業員を現場から離脱させる、窓口を一本化する等の判断が必要になることもあります。その際は「不当な差別要求を受け入れた担当変更」ではなく、あくまで安全確保の判断であることを社内記録として残し、再発防止を検討することが重要です。
また、指針の中には、相談者等のプライバシー保護について「性的指向・ジェンダーアイデンティティ等の機微な個人情報も含まれる」ということも明記されています。SOGIに関する相談は、「相談したら社内で噂が広まるのでは」という不安から、相談そのものが抑制されやすい領域です。相談窓口を周知するだけでなく、情報管理方法(誰が、どの範囲でアクセスできるか等)を明示し、確実な運用を担保することが、安心につながります。

SOGIハラスメントへの対策は、“特別対応”ではなく、機微な個人情報の取扱いや本人の意思決定の尊重をどう考えるかといった、職場の基本姿勢自体をアップデートする取り組みとも言えます。カミングアウトの強要や禁止をしない、差別要求型のカスハラには組織として毅然と対応する、等の実践を共通認識としていくプロセスは、「何か起きたら対処する」段階から「そもそも困りごとが起きにくい、包摂的な職場環境をつくる」段階へと、ハラスメント対策とダイバーシティ推進を一歩前進させます。全ての人の尊厳が守られ、安心して相談でき、多様な社員が力を発揮できる職場を実現するために、あらためてSOGIハラ対策を考えてみてはいかがでしょうか。

(2026年1月)

プロフィール

中島 潤(なかじま じゅん)
認定特定非営利活動法人ReBit(リビット)理事/事務局長

経歴

東京外国語大学在学中に、ReBitにて研修やイベント企画等、多様な性に関する発信活動を開始。学部卒業後、トランスジェンダーであることを明かして民間企業に就職。営業職を経て、販売企画部門課長職として、予算管理や人材育成、組織体制の強化といったマネジメント業務に従事。その後、より深く「多様な性」をめぐる課題を研究すべく、大学院にて社会学を専攻、修士(社会学)。現在は、「LGBTQも含めた誰もが、自分らしく働き、暮らすことを実現する」という目標のもと、企業・行政等への研修やDE&I推進のコンサルテーション、就活生・就労者への支援を行う。ReBitの他、民間企業の人事・総務担当、大学でのジェンダー・セクシュアリティの非常勤講師としても勤務中。

●書籍監修:『「ふつう」ってなんだ?―LGBTについて知る本』(学研プラス)、『みんなで知りたいLGBTQ+』(文研出版)他

●翻訳:ジェンダー平等と公平についてのおはなし『これがじぶんのいろ』シリーズ(ゆまに書房)

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