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ハラスメント対策最前線ハラスメント関連の判例解説(3)

W社事件

難解な判例もわかりやすく解説!成蹊大学法学部教授 原 昌登 先生による職場におけるハラスメントに関する判例解説です。
これまでの「ハラスメント関連の判例解説」はこちらをご覧ください。
ハラスメント関連の判例解説

東京地判平成24・6・13労働経済判例速報(労経速)2153号3頁

【テーマ】違法なセクハラ(セクシャルハラスメント)か,合意の上の関係か? セクハラ認定の基本的な考え方

【1.概要】

本件はセクハラの事案です。Y1社(葬祭業)へ中途入社した女性Xが,男性上司Y2からセクハラ行為を受け,退職を余儀なくされたとして,損害賠償を請求したところ,上司および会社の責任が認められました。

【2.事案の流れ】

(1)Y2は平成20年4月にXが入社して間もなく好意を示すようになり,ドライブや居酒屋に行くなどの行動を経て,同年6月以降,月に1回程度,性行為を行うようになりました。平成21年2月頃からXが性行為を拒否したところ,仕事を与えない,無視するなどの嫌がらせを行うほか,(女性従業員は通常行わない)宿直勤務をXに指示し,宿直時に性行為を強要するなどしました。平成22年1月,Xは母親同席でY2と会い,Y2はXらの求めに応じセクハラをしないと誓約しましたが,同年3月以降,再び,外回り時や宿直時に性的な言動,接触行為等を行うようになりました。

(2)その後,Xは心身の不調が増大し,平成22年7月から休職し,10月に休職期間満了で退職扱いとされました(なお,既婚者のY2は,Xとの不倫関係を理由として同年8月に懲戒解雇されました)。

【3.ハラスメント行為(セクハラ行為)】

Y2は,上記2(1)の事実の存在は認めたものの,Xとは合意の上での不倫関係にあり,セクハラではないと反論しました。しかし裁判所はXの反論を認めず, 2(1)はセクハラに当たると判断しました。

【4.裁判所の判断】

(1)Y2の不法行為責任(民法709条),Y2の雇用主としてのY1社の使用者責任(民法715条)を認め,損害の賠償を命じました(Y2とY1社の連帯責任)。Y2の反論に対しては,「セクハラを受ける女性の中には,職を失うことへの不安や,セクハラを受けていることによる気恥ずかしさなどから相談をためらう者がいる」,「加害者を怒らせないようにして自分を守ろうとする無意識の防衛本能が働くため……喜んで従って見えることがあるから,一見して性行為の強要があることがわかりにくい」などと述べて,合意の上であることを否定しました。 (2)賠償額については,Xが求めた賃金2年分(「逸失利益」約2700万円)は認めず,Xが社会的経験を積んだ女性であり,周囲に相談できないような状態であったとは認めがたく,セクハラの長期化にはXの対応にも一因があったなどと述べて,慰謝料および弁護士費用(計220万円)のみ認めました。

【5.本判決から学ぶべきこと】

セクハラの事案では,被害者による明確な拒絶や周囲への相談がなかったからといって,安易に「これは合意の上の関係であって,セクハラではない」と判断することは避けなければなりません。上記4(1)のような考え方は多くの企業で定着しているようにも思われますが,いまだにY2のような主張も見られますので,本判決をきっかけに,企業としてセクハラと認定するか否かの判断枠組みについて,今一度確認しておくとよいでしょう。
判断の際は,皆の前で叱責するようなパワハラ(パワーハラスメント)の事案とは異なり,当事者の証言以外に客観的な証拠を集めにくいというセクハラ事案の特徴に留意する必要があります。基本的なことですが,当事者から別々に聞き取りを行い,記録を付き合わせながら,どちらの話が不自然,不合理か,検討する作業が重要です(セクハラの冤罪を防ぐという意味でも重要な課題です)。その際,被害者側の反応・態度として上記4(1)のような特徴が見られることをしっかりと把握しておきましょう。

(2013年6月)



プロフィール

原 昌登(はら まさと)
成蹊大学 法学部 教授
1999年 東北大学法学部卒業
専門分野 労働法

著書(共著)

労働法のわかりやすい入門書(単著)として原 昌登『コンパクト労働法』(新世社、2014年)。ほか、共著として水町勇一郎・緒方桂子編『事例演習労働法(第3版)』(有斐閣、2017年)など多数。

論文(単著)

「職場のパワーハラスメント防止対策の選択肢と意義」労務事情2018年6月1日号34頁
「パワハラ対策の意義と課題」成蹊法学88号(2018年)282頁など多数。

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