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ハラスメント対策最前線ハラスメント関連の判例解説(4)

第一興商(本訴)事件

難解な判例もわかりやすく解説!成蹊大学法学部教授 原 昌登 先生による職場におけるハラスメントに関する判例解説です。
これまでの「ハラスメント関連の判例解説」はこちらをご覧ください。
ハラスメント関連の判例解説

東京地判平成24・12・25労働判例(労判)1068号5頁

【テーマ】パワハラ(パワーハラスメント)の有無の判断は,当事者の証言の信用性,合理性を考慮して,慎重に!

【1.概要】

今回は,上司からパワハラを受けたという社員の主張が否定された例を紹介します。Y社の社員Xが,複数の上司から嫌がらせや暴言を受けたとして会社に損害賠償を請求したところ,パワハラの存在が否定されたという事件です。

【2.事案の流れ】

本件には複数の争点がありますが,パワハラに関する部分に絞って紹介したいので,全体像を簡単にまとめます。本件は,Xがパワハラを受け,精神的に追い込まれ視覚障害を発症し休職するも,休職期間満了時に復職は不可能であるとして自動退職扱いとされたため,Y社に対し,①Xの上司ら複数名のパワハラ(不法行為)を放置したことがY社の安全配慮義務違反(労働契約法5条)および不法行為(民法709条)にあたるとして損害賠償を求めるとともに,②自動退職は無効であるとして復職(労働契約上の地位にあることの確認)等を求めた,という事案です。 以下,①の上司1名に関する部分を紹介します。(なお,②については,裁判所はXが復職可能であると判断し,基本的にXの請求を認めています。)

【3.ハラスメントであると主張された内容】

Xは,Y社の内部統制推進室宛てにメールを書き,上司の課長Aから「お前,どういうつもりだ,潰すぞ!」「会社が気に入らなければ,辞めるしかないぞ!」「おれの言う事を聞けと言ってんだよ,分かってるのか,なめんじゃねぇぞ,返事しろ,オイ!」などと暴言を受け,Aの発言の一部はレコーダーに録音してあると伝えました。しかし,録音データは会社に提出されなかったこと,Xはデータのコピーも持っていないことが,裁判所によって認定されています。

【4.裁判所の判断】

裁判所は,XがAから受けた暴言等を裏付ける「客観的証拠」が存在しないとした上で,Xが録音データを会社側に示さず,データのコピーすら持っていない点が「明らかに不自然,不合理といわざるを得ない」とし,実際にはAの発言が「Xが主張,供述するほどに過激なものでなかったと考えられ」,「Xの供述には,全般に誇張された傾向があるのではないかと疑われる」と述べて,暴言等に関するXの供述は「信用することができず」,Aによるパワハラを認めることはできないと結論付けました。

【5.本判決から学ぶべきこと】

社員からハラスメントの相談や救済の申し立てがあった場合,ハラスメント行為の有無を調査し認定することは,必ずしも調査の専門家ではない実務担当者にとって,ひいては会社にとって,大変難しいことといえるでしょう。ここでポイントになるのは,被害者であると主張する側,加害者とされた側からよく事情を聴き,その証言に矛盾がなく,全体として信用できるか,合理的な主張であるといえるかを慎重に判断することです。本件では,録音があると言っておきながら一切そのデータを出さないというXの態度が不自然,不合理であるとして,Xの証言は信用できないという結論につながっており,会社における調査でも参考とすべき一例といえます。
ただし,録音がないから事実がない,と断定するのは早計です。本件でも,裁判所の判断の根拠となったポイントは,単に録音がなかったという点ではなく,あくまでXの態度が不自然であったという点です。近時,事実の記録としてレコーダーによる録音が多く活用されるようになっていますが,重要なことは,そうした記録も含めて関係者からできるだけ証言,証拠を集め,主張に矛盾はないか(言ってみれば,違和感は生じないか),慎重に検討することにあるといえるでしょう。

(2013年10月)



プロフィール

原 昌登(はら まさと)
成蹊大学 法学部 教授
1999年 東北大学法学部卒業
専門分野 労働法

著書(共著)

労働法のわかりやすい入門書(単著)として原 昌登『コンパクト労働法』(新世社、2014年)。ほか、共著として水町勇一郎・緒方桂子編『事例演習労働法(第3版)』(有斐閣、2017年)など多数。

論文(単著)

「職場のパワーハラスメント防止対策の選択肢と意義」労務事情2018年6月1日号34頁
「パワハラ対策の意義と課題」成蹊法学88号(2018年)282頁など多数。

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