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ハラスメント対策最前線ハラスメント関連の判例解説(7)

アークレイファクトリー事件

難解な判例もわかりやすく解説!成蹊大学法学部教授 原 昌登 先生による職場におけるハラスメントに関する判例解説です。
これまでの「ハラスメント関連の判例解説」はこちらをご覧ください。
ハラスメント関連の判例解説

大阪高判平成25・10・9労判1083号24頁

【テーマ】派遣社員に対するパワハラ(パワーハラスメント)防止にも十分な対策を!

【1.概要】

今回は,労働者派遣において,派遣社員に対する派遣先の社員の言動がパワハラと判断され,派遣社員から派遣先に対する損害賠償請求が認められた事件を紹介します。

【2.事案の流れ】

派遣社員として医薬品の製造販売等を営む派遣先Y社に派遣され,昼・夜の二交代制で製造業務に就いていたXは,Y社の社員で所属する製造ラインの責任者であるA,Bからパワハラを受けたとして,派遣元である派遣会社C社を通してY社に苦情を申し出るとともに,労働局にあっせんを申請するなどしましたが,解決に至りませんでした。そこでXは,Y社に損害賠償を求めて訴訟を提起し,地裁はその一部を認めます(大津地判平成24・10・30労判1073号82頁)。これを不服としたY社が控訴したのが本件です。

【3.ハラスメント行為】

Aらの言動で法的に問題があるとされたものは多岐にわたります。主なものとして,(1)XがAから(昼から夜への業務の引継ぎの際に)指示された業務を夜の勤務で行おうとした際,Bの指示でこれを止めたところ,Aから命令違反と言われて非難されたこと,(2)Xが作業を指示通りに行っていなかったとして,Aから「殺すぞ」と叱責されたこと,(3)Xが体調不良で欠勤した際に,Aらから,実は仮病で,本当はパチンコに行っていたのだと非難されたこと,が挙げられます。

【4.裁判所の判断】

裁判所は,3(1)(2)のように指導としてなされた言動に関しては,監督者が監督を受ける者に対し指示や叱責を行う際は,「適切な言辞を選んでしなければならないのは当然の注意義務」である,と述べ,(3)のように指導に付随する軽口ともいえる言動については,1回だけなら違法とならないこともありうるものの,繰り返し行われた場合には嫌がらせや侮辱として違法性を帯びるに至ると述べた上で,本件におけるAらの言動は極端な言辞による指導や対応を繰り返すもので,全体として違法性があると評価しました。

そして,XとAらの人間関係は,派遣社員と派遣先の正社員であるということからも「反論を許さない支配・被支配の関係」となっており,Aらの言動は,こうした「一方的に優位な人間関係」を前提になされた社会通念上著しく相当性を欠くものであって,パワハラと評価せざるを得ないとして,(賠償額など細かい変更はあるものの)地裁の結論を維持し,Aらの雇用主であるY社の使用者責任を認め,損害賠償(慰謝料30万円の支払い等)を命じました(民法715条)。

【5.本判決から学ぶべきこと】

本判決の大きな特徴は,労働者派遣における派遣先社員の派遣社員に対するパワハラについて,派遣先企業の損害賠償責任が認められた点にあります。派遣におけるパワハラの問題について,判例はまだあまり見られないので,先例として注目すべきでしょう。本判決では,違法なパワハラか否かの判断において,AらとXの人間関係が「支配・被支配」「一方的に優位」であることが重視されました。もちろん,こうした関係が派遣のすべての事例に当てはまるわけではありませんが,派遣社員を受け入れる派遣先の側としては,派遣社員に対する態度(接し方),指示の出し方,注意の仕方などについて,自社の社員に対する指導,研修等にも留意することが求められるといえるでしょう。

なお,Aらの行為を違法なパワハラと認めた点は,これまでの判例の傾向に沿った判断といえます。指導や注意を行う際は,どんな言い方も許されるわけではなく,「適切な言辞」を用いるべきと述べた点も,あわせて確認しておくとよいでしょう。

(2014年10月)



プロフィール

原 昌登(はら まさと)
成蹊大学 法学部 教授
1999年 東北大学法学部卒業
専門分野 労働法

著書(共著)

労働法のわかりやすい入門書(単著)として原 昌登『コンパクト労働法』(新世社、2014年)。ほか、共著として水町勇一郎・緒方桂子編『事例演習労働法(第3版)』(有斐閣、2017年)など多数。

論文(単著)

「職場のパワーハラスメント防止対策の選択肢と意義」労務事情2018年6月1日号34頁
「パワハラ対策の意義と課題」成蹊法学88号(2018年)282頁など多数。

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