社外相談窓口

ハラスメント対策最前線ハラスメント関連の判例解説(17)

航空自衛隊自衛官(セクハラ)事件

東京高判平成29・4・12労判1162号9頁

【テーマ】セクハラを許さない「環境」作り,粘り強く続けましょう

1.概要

今回は,加害者が組織内における自らの地位を振りかざし,非正規かつシングルマザーという弱い立場にあった被害者に対し悪質なセクハラ行為に及んだ事例を紹介します。

2.事案の流れ

X(昭和52年生)は,平成22年4月,同年9月末までの任期で自衛隊A基地の非常勤隊員として採用され,事務の仕事を行っていました。Xは夫と離婚してシングルマザーとなったため,幼い娘との生活を自らの収入だけで支える必要がありました。
Y(昭和37年生・既婚者)は,Xと比べれば階級はかなり高く,A基地でXとは別の部署に所属していました。Xが平成22年9月に再度非常勤隊員(任期は平成23年3月末まで)の採用試験を受けた前後,YはXに対し下記3のセクハラ行為①~③を行います。Xの合格後,Yは(Xの人事に対しては直接的な権限がないにもかかわらず)人事に関し自己の影響力を誇示するような発言を行うようになります。Xは,当時は相談窓口等の存在を知らず,また,以前別の上司からセクハラを受けた際に対応してもらえなかったため,セクハラを申告しても無駄だと思っており,何より,断れば自分に人事上の不利益があると思っていたため,Yから繰り返し性的関係を強要されるようになります(下記3の④)。
XはA基地所属の自衛官Bと交際を始め,その事実を伝えてYとの性的関係を解消しようとしますが,Yは応じません。Xの精神状態は悪化し続け,平成23年3月末に退職し,生活保護の認定を受けるに至ります。退職後も,Bに人事上の不利益が及ぶと思い込んだXは,Yとの性的関係を絶つことができませんでした。
その後,YのことをBに打ち明けたXは,警察に相談するとともに,自衛隊内の相談窓口に申告し,Yに対し慰謝料など1,100万円の損害賠償を求め訴訟を提起します。地裁は,セクハラ行為①③④については,証拠がなく,そのような事実自体が存在しないとして,セクハラ行為②の存在のみを認め,慰謝料30万円の支払いをYに命じました(静岡地判平成28・6・1労判1162号21頁。なお,地裁判決後,YはXとの関係を理由に減給1か月の懲戒処分を受け,平成28年に定年退職しました)。高裁では,①~④の存在がすべて認められ,下記4のように慰謝料等の金額が大幅に引き上げられました。

3.ハラスメントであると主張された内容

①「人事上のことで状況を聞きたい」と言って夜間に呼び出し,抱きしめるなどの接触を試みたこと,②採用試験の合格発表前に,無人島に連れて行き,抱きしめてキスをしたこと,③同じく発表前に,「非常勤採用試験の合格者選考をしている最中だ」と言って映画に誘い,その後ホテルで性的関係を強要したこと,そして,④人事への影響力をちらつかせながら,Xの自宅やホテルで繰り返し性的関係を強要し続けたことが,ハラスメントであると主張されました。

4.裁判所の判断

上記3の①~④,すなわち,Yが上官としての地位を利用し,人事への影響力をちらつかせ,母子家庭で雇用や収入の確保に敏感になっているXの弱みにつけ込んで性的関係を強要し続けたことが不法行為(民法709条)に当たると判断しました。さらに,Xの精神状態を病的に悪化させ,それにもかかわらず欲望処理のための性的関係を求め続けた点などは悪質であり,XがYから繰り返し受けた不快な言動を原因とするPTSD症状に苦しめられているなど被害も非常に深刻であるとして,慰謝料等880万円の支払いをYに命じました。

5.本判決から学ぶべきこと

「環境」がとても重要であることを学ぶべきでしょう。まず,いまさら言うまでもないことですが,男性が多い(いわゆる男社会である),上下関係が強い,といった環境があったとしても,セクハラが正当化されることは一切ありません。企業としては,相談できる環境(窓口)があるのだから利用してほしい,と思うかもしれませんが,社員が自社を「セクハラに甘い環境だ」と思っていると,被害があっても申告されにくくなります。また,特に非正社員の場合など,そもそも窓口を知らないこともあるでしょう。
このように,環境を整えたつもりでいても,十分に機能しない場合があるので,セクハラに関する周知啓発,研修などを粘り強く続けていくことがぜひとも必要なのです(均等法11条のセクハラ防止措置義務も参照)。もちろん,言うほど簡単なことではありませんが,セクハラをしない・させないという環境の確立を目指し続けましょう。

プロフィール

原 昌登(はら まさと)
成蹊大学 法学部 教授
東北大学法学部
専門分野 労働法

著書(共著)

水町勇一郎・緒方圭子編「事例演習労働法(第2版)有斐閣2011」ほか多数

論文(単著)

原 昌登「高年法に基づく継続雇用制度をめぐる判例の整理とその課題」基幹労働法236号113-124頁、2012 ほか多数

その他の記事

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