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ハラスメント対策最前線ハラスメント関連の判例解説(18)

A社長野販売ほか事件

難解な判例もわかりやすく解説!成蹊大学法学部教授 原 昌登 先生による職場におけるハラスメントに関する判例解説です。
これまでの「ハラスメント関連の判例解説」はこちらをご覧ください。
ハラスメント関連の判例解説

東京高判平成29・10・18労判1179号42頁

【テーマ】「間接的」なパワハラの発生にも注意が必要です。

1.概要

今回は,パワハラに当たる言動が,その直接の対象者以外の従業員についても「間接的」にパワハラに当たるとされた,比較的珍しい事例を紹介します。

2.事案の流れ

X1~X4はY1社の女性従業員であり,年齢は48歳から58歳で,Y1社の従業員30数名中,女性はこの4名のみでした。Y1社の新代表者に就任したY2は,X1,X2が以前,前代表者の交際費の支出について不適切な経理処理を行っていたなどとして,下記3のように非常にきつい言葉で侮辱的な発言をしました。それとともに,X1,X2の賞与を減額し,X2には懲戒処分(係長職を解く降格処分)も行いました。なお,X3,X4に対して直接的に侮辱的な言動などがなされることはありませんでした。
X1~X3は話し合って退職することを決め,X4も一人で勤務を継続することは困難と考え,結局,X1~X4全員が退職に至ります。またその際,退職金は自己都合退職として計算した額とされました。
X1~X4は,Y2からパワーハラスメントを受けたとして,Y1社とY2に対し慰謝料等の支払い,Y1社に対し会社都合退職として計算した退職金との差額の支払いなどを求めました。なお,X1,X2は賞与の減額や懲戒処分も無効であると主張し,地裁,高裁ともにX1らの主張を認めましたが,今回は省略し,間接的なパワハラに関する部分に絞って紹介します。
地裁はX1,X2に対するY2のパワハラが不法行為(民法709条)に当たるとして,Y1社とY2に慰謝料の支払いを命じるとともに,X2についてのみ,差額退職金の支払いをY1社に命じます。そしてX3,X4については,直接的なパワハラはなかったものの,朝礼におけるY2の不適切な言動(「50代はもう性格も考え方も変わらない」「50代は転勤願いを出せ」)などが不法行為に当たるとして,慰謝料の支払いをY1社とY2に命じました(以上,長野地松本支判平成29・5・17労判1179号63頁)。高裁では下記4のように慰謝料などが大幅に増額される結論となりました。

3.ハラスメント行為(直接的なもの)

X1,X2に対するY2の以下の言動が裁判所によって認定されています。
①X1に対して:「X2の責任もあるが,X1にも責任がある。会社としては刑事事件にできる材料があり,訴えることもできるし,その権利を放棄していない」「X1の給与が高額に過ぎる。50歳代の社員は会社にとって有用でない」などと述べるとともに,賞与を正当な理由なく減額したこと
②X2に対して:「前代表者の指示には従うが,自分(Y2)の指示には従わない,泥棒をしろといわれたらそのとおりにするのか…いない人の罪にしておかしい,子供の世界だ」などと長時間にわたり一方的に述べるなど,正当な理由なく批判,非難を続けるとともに,賞与を正当な理由なく減額し,降格の懲戒処分を行ったこと

4.裁判所の判断

まず,上記3のパワハラ行為がX1,X2に退職を強要する違法な行為(不法行為)であると判断しました。そして,X3,X4は,同じ職場で働く中でこうした言動を見聞きしており,今後自分達にも同じような対応があると受け止めることは当然であって,いずれ退職を強いられるであろうと考え退職に至ったもので,X1及びX2に対する退職強要行為はX3及びX4にも間接的に退職を強いるものであるから,X3及びX4との関係においても違法な行為に当たるとしました。
結論として,地裁でX2が勝訴した部分(慰謝料等110万,差額退職金約175万など)を維持しつつ,X1,X3,X4についても差額退職金の支払いを命じるとともに,慰謝料等を増額しました(慰謝料等はX1が22万から77万,X3,X4がそれぞれ5.5万から44万に増額され,退職金はそれぞれ約45~65万とされました)。

5.本判決から学ぶべきこと

本判決は,退職を強要するパワハラ行為が直接の対象者「以外」についても退職の強要に当たるとして,いわば「間接的」なパワハラを認めた初の例です。もちろん,これはすべての事案にあてはまるわけではありません。X1~X4が非常に近い関係にあり,誰かがパワハラを受ければいずれ自分も…と思ってしまうような,特徴的な事案であったことが大きく関係しています。しかし,従業員の関係性によっては,パワハラの直接の対象者以外についても加害者や会社が責任を負う可能性が示された点はとても重要です。しっかりと確認しておく必要があるでしょう。
なお,X1,X2に対する言動(直接的なパワハラ)を違法と判断した部分は,従来の判例に照らしても妥当であり,納得できる結論といえますので,念のため補足しておきます。

プロフィール

原 昌登(はら まさと)
成蹊大学 法学部 教授
1999年 東北大学法学部卒業
専門分野 労働法

著書(共著)

労働法のわかりやすい入門書(単著)として原 昌登『コンパクト労働法』(新世社、2014年)。ほか、共著として水町勇一郎・緒方桂子編『事例演習労働法(第3版)』(有斐閣、2017年)など多数。

論文(単著)

「職場のパワーハラスメント防止対策の選択肢と意義」労務事情2018年6月1日号34頁
「パワハラ対策の意義と課題」成蹊法学88号(2018年)282頁など多数。

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