ハラスメント・インサイトリモートハラスメント 日頃の信頼関係が影響 全員参加でルール作りを

リモートハラスメント 日頃の信頼関係が影響 全員参加でルール作りを

この記事は、労働新聞〔中小企業も実現できる!ハラスメントのない職場〕の連載を許可を得て全文掲載しております。

大きく2つに分類可

2019年末から世界を震撼させ続けている新型コロナウイルス。感染者が減少してきたと思ったところで次々と登場する変異株、この先何回打てば良いか分からないワクチンなど、まだまだ予断を許さない状況だ。このパンデミックによって、私たちの仕事環境は大きく変貌したが、そのなかでとくに進んだのがリモート勤務である。緊急事態宣言により自宅待機となり、自宅にPCを持ち込んで作業できるようになったのは、ZoomやTeamsといったオンライン会議ツールがあったことも大きな要因だろう 。オンライン会議ツールは、使い始めた時には目新しさもあり、「オンライン飲み会」など、これまでできなかったことが実現できる喜びに溢れていたように思う。そしてその利便性とは裏腹に、人との交流が断絶されることの辛さや寂しさを、誰もが身近に感じるようになった。やはり人は孤独に弱い生き物なのである。一方で、にわかに注目を集めるようになったのが、「リモートハラスメント(リモハラ)」である。その内容は多岐にわたるが、代表的なものは次の2つに分類される。1つは、リモート会議中にプライベートなことに言及すること。「今日はスッピンなの?かわいいね」「部屋の様子をカメラで映して見せて」などの言動が当たる。これを言われた人は自宅をのぞき見されているような気持ちになり、カメラをオフにしたいのに「顔が見えないと会議にならないからオンにするように」と言われ、八方塞がりになってしまうというものだ。もう1つは、会議中でもないのに会議ツールを常につなぎながら「ちゃんと仕事をしているかどうか確認するから、常にカメラをオンにしろ」と指示されたというケース。急速に広がったオンライン会議の場は、新たなハラスメントの形式を生み出すことになった。

「混在」が当たり前に

これらの行為がハラスメントかどうかを考えるうえで大切なのは、何度も言うように「受けた人の不快感」ではなく、「人格や尊厳を傷付ける言動か」どうかだ。これに照らして考えると、先ほどの2つのケースにはグラデーションがあり、一概に判断できないように思われる。そこで、もう1つ参考にしたいのが、パワハラの6類型である。ただし、ここに記載されている言動以外は「問題ない」のではなく、あくまでも「例」であることに留意してほしい。6類型のうち、「個の侵害」のなかでパワハラに該当する例として「職場外でも継続的に監視したり、私物を写真撮影したりする」が挙げられている。リモートハラスメントが問題となるのは、自宅というプライベートな空間に、否応なく職場が侵食してくるという事実だ。本来であれば、自宅は仕事から離れ、趣味に没頭したりリラックスしたりできる空間なのに、その境界線が曖昧になり混乱してしまったことがその要因である。また、自宅で仕事に集中できるような部屋や机がなく、リビングでやらざるを得ない場合や、一人暮らしの人ではベッドの上にちゃぶ台を置いて仕事をしなければならなかったケースもある。在宅勤務では、プライベートと仕事を完全に分けることは現実的ではなく、混在するなかで業務に当たるのがスタンダードだと考える必要がある。これまで当たり前のようにオフィスで部下の様子を見ることができ、表情や何気ない雑談などから業務の進捗状況を把握できたものが突然できなくなり、上司として不安な気持ちになるのは理解できる。しかし、プライベートな空間で業務をしているという前提条件を考えれば、従来とまったく同じ方法を採ろうとすること自体に無理があり、業務管理のつもりがプライバシーの侵害となり、問題になり得ることはしっかりと自覚しておきたい。つまり、部屋の様子を見せてほしいと言ったり、上司が部下に対してカメラをオンにして業務をしているかどうか監視したりするようなことは、部下の業務の妨げにしかならないのだ。最近では定期的に一対一のオンライン会議を行う会社が増えてきているが、上司が不安なことはその場でしっかりと伝え、双方に認識のズレがないか確認することで、かえってハラスメントの訴えが減少した職場もある。せっかく活用できるツールがあるのだから、これまでと違うやり方でお互いにより良い使い方を見つけていくことが大切だ。

オフにしたい背景は

会議中のカメラのオン・オフについても、よくトラブルとして報告されている。私たちの会社にも「『上司がカメラをオンにしろというのはハラスメントになるのではないか』という相談が増えて、対応に困っています」というハラスメント相談担当者からの嘆きはよく寄せられる。これは会社によって作法が大きく異なる場合が多く、最近では無理やりオンにすると「ハラスメント」と言われてしまうことを恐れて、会議中はカメラをオフにするケースが増えてきているように思う。一方で、表情が見えないと話を本当に聴いてくれているのか、お互いに不安になることがある。人はコミュニケーションにおいて55%が視覚情報を頼りにしており、マスクの存在やカメラオフの状態で表情が見えない場合、より良いコミュニケーションの足かせになり得ることを示している。そう考えると、一様に「これが正解」というものは存在しないのだ。カメラをオフにしたいという心理の背景には、これまでの信頼関係や距離感の影響もある。それだけに、上司やリーダーなど、誰かが語気を強めて一方的に決めてしまうと、問題を大きく発展させてしまう。「オン・オフのどちらにするのか」を問題にするのではなく、この機会に「なぜ会議のときにカメラをオンにする必要があるのか」「カメラがオンだと違和感や抵抗感があるのはなぜか」など、メンバー全員の意見を聞きながら考えを深め、職場で新たなルール作りをしてほしい。その際、上司やリーダーは仕事への向き合い方や職場のメンバーとの距離感は人それぞれ異なり、それは個人の尊厳の問題と深く関係していることだという認識を持つべきだ。それぞれの「仕事」「職場」へのスタンスを大切にしつつ、業務に必要な部分をどうするかを決めていくと良い。また、一度決めたからといって変えないのではなく、状況が変わればその後も柔軟に変えていけば良いのである。新しい環境には、新たなルール作りを、全員で。このような会社や職場は、ハラスメントも予防できるだろう。

労働新聞 第3352号 令和4年(2022年)5月16日
執筆:株式会社クオレ・シー・キューブ 取締役 稲尾 和泉

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