ハラスメント・インサイト増えるハラスメントでない相談 不快か否かで認定せず 問題は人格傷付く言動か

増えるハラスメントでない相談 不快か否かで認定せず 問題は人格傷付く言動か

この記事は、労働新聞〔中小企業も実現できる!ハラスメントのない職場〕の連載を許可を得て全文掲載しております。

部下の理解も必要に

ハラスメント被害の相談には、客観的な立場で聴くと「どうもハラスメントではないらしい」と思われるケースがみられる。データがあるわけではないが、経験則として相談の2割程度は「相手を不用意に怒らせている」「ハラスメントとは別の問題を抱えている」「相手のことが嫌いである」ことが要因ではないかと推察されるものだ。このような相談が来る背景には、日本に深く根付いてしまった「相手が不快に感じたらハラスメントである」という本質を離れた認識である。
そもそもハラスメントを直訳すれば「嫌がらせ、いじめ、苦しめること」という言葉が出てくることから、元々は意図をもって相手を傷付けるというニュアンスが含まれている。近年においてはそこからさらに発展し、ILOでは職場のハラスメントを「身体的、精神的、性的、経済的に相手を傷付ける許されない言動で、それは意図的か無自覚かを問わず、単発か繰り返されるかも問わず、ジェンダーに基づく暴力や言動も含むもの」としている(図)。

つまり、ハラスメント言動とは、自分が受けた言動が「不快」であることの根源が「人格や尊厳を傷付けられる言動」であったどうかを中心に考えるべきことで、単純に「嫌いな上司から言われた一言が気に入らない=不快だ」とか、「失敗を厳しく注意されてグサッときた=不快だ」という「不快に感じたかどうか」で判断されるものではない。あくまでも「人格や尊厳を傷付けられたから、その結果が不快」なのであって、順番が逆なのだ。
指導を受ける部下側がそのことを理解するためにも、全従業員向けの啓発や研修で、繰り返し「不快だからといって、すぐにハラスメントと認定されるわけではない」と伝えることが、今後ますます重要となる。
部下指導の際、上司やリーダーは部下の尊厳を傷付ける暴力行為や「死ね」「お前なんかいらない、辞めちまえ」という存在否定の言動、また能力や成長を否定する「バカには何をいっても無駄」「どうせお前には無理」などの言動は指導ではなくハラスメントであり、そのような言動は誰に対しても許されないという認識を持つべきだ。一方で、「こういうミスは繰り返さないように」「遅刻が多いのは問題だ」など、具体的な問題行為について指摘し、改善を促すのは上司の役割であり、厳しい指導を部下から「パワハラだ」と言われたとしても、その指導の背景をしっかりと説明し、指導する必要がある。
しかし、問題となる言動について繰り返し指摘しても、部下の行動が改善しないケースもある。その場合は、背景にある部下の気持ちや状況をじっくりと丁寧に聴いていくことが肝要だ。実は、パワハラだという訴えの背景を聴いていくと、将来のキャリアに対する不安や、自分の評価や待遇への不満、孤独感などが浮かび上がってくることが多い。部下は頭では「このままではまずい」と理解していても、行動に移す段階で不安や不満がいっぱいで身動きが取れないジレンマに陥っていたり、「困りごとを上司に相談すると評価を下げられるのではないか」と疑心暗鬼になっていることもある。ここで上司が「何度言っても変わらないね」などとサジを投げてしまうと「上司に見捨てられた」「嫌われたに違いない」と勘違いして、不安が怒りに転じ、「パワハラを受けた」という訴えに発展してしまうのである。

任せてみるのも一手

人間なので、上司も部下も誰もが、誰かに対して苦手意識を持ったり不安になったりすることがある。そのことを否定するのではなく、そういうネガティブな気持ちになることは誰にでもあることを前提に、相手の思いや状況をよく知ることをスタートラインにしよう。勝手に解釈することを避け、相手の気持ちにじっくりと耳を傾けて聞くことを「傾聴」というが、実は不安や不満は誰かにしっかりと聴いてもらうことで解消していくものなのだ。むしろ、気持ちを十分に吐き出せないと、その次の行動に移れないことが多い。不安や不満でいっぱいになっている部下の気持ちにフォーカスして、じっくりと向き合う時間をとるように心掛けたい。そのうえで、お互いに何ができるのか一つひとつ整理していくと良い。
一方で、自信満々で上司のいうことを聞かず、自分のやり方で勝手に仕事を進めてトラブルを起こすようなケースもある。このような部下も、実態は自信のなさや焦りから成果を出すことを急いでいたり、自分なりのやり方で成功することが自己の成長につながると盲信していることがあり、上司としては困った部下と映るだろう。その場合は、トラブルになっている事実をしっかりと示し、改善が必要であることを伝える必要がある。その際に、「〇〇という言動をやめるように」だけでなく「お客様により良いサービスを提供するため」「会社としての価値を高めるため」など、行動改善によってプラスの結果をもたらすゴールを明確に示すことが大切だ。あれはダメ、これはダメ、という目先のことだけ指摘しても、なぜその改善が必要なのか理解できないこともある。問題行動の改善が、本人の成長や会社の発展にどのように貢献するのか、丁寧に説明したい。
それでも「自分のやりたいようにやる」ことを求めているのであれば、自分の言動に責任を持たせ、やらせてみるというのも1つの方法だ。その結果、成功すれば部下の自信にもなるし、上司にとっても新たな発見になるかもしれない。失敗したならば指示通りやってみることにも納得できるだろう。結局、仕事は経験に勝るものはない。自分のいう通りにやらない部下を無理やりイメージ通りに動かそうとすれば、パワハラを誘発してしまう。
これらの指導を繰り返しても行動改善しない場合は、他の管理者や上司に相談することも必要だ。部下の育成は上司が個人で背負うものではなく、会社全体で責任を持つものでもある。自分1人で抱え込むことなく、いろんな人の英知を集めて人材育成することが、中小企業の生き残り戦略といえるだろう。

労働新聞 第3353号 令和4年(2022年)5月23日
執筆:株式会社クオレ・シー・キューブ 取締役 稲尾 和泉

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