ハラスメント・インサイトパワハラを招く職場環境 役割の「曖昧さ」が原因 裁量が低いと高ストレス

パワハラを招く職場環境 役割の「曖昧さ」が原因 裁量が低いと高ストレス

この記事は、労働新聞〔中小企業も実現できる!ハラスメントのない職場〕の連載を許可を得て全文掲載しております。

物理的要因の改善を

ハラスメントの起きやすさは、「狭さ」「暑さ」「寒さ」「におい」など、まさに「物理的な職場環境」とも関係している。事務所の通路が荷物で塞がれて歩きにくく苛立ったり、隣の人の強すぎる香水の香りで気分が悪くなったり。よく話題になる夏場のエアコン温度設定にまつわるトラブルも、人の五感に与える影響が背景にある。五感に悪影響があればストレスが高まるので、心身の疲弊につながりイライラや怒りが表出しやすくなるのは、ある意味自然なことだといえよう。

ハラスメントについて個人の不快感を軸に判断するのは問題であると、この連載でも何度か取り上げているものの、不快感が全く影響しないというわけではない。ただ、それらを「ハラスメントだ」と表現すると当事者同士が対立構造となってしまい、解決が難しいことがある。荷物で狭くなった通路について、上司から「誰だよ!こんなところに邪魔なものを置くのは!早く片付けろ!」と怒鳴られたことを、「上司からパワハラを受けました」と訴えても、その後の関係はこじれてしまうばかりだ。一方、その荷物がなぜそこに置いてあるのかを共有し、いつまでにどのように片付けて安全な通路を確保するか、関係者と相談して実践すれば、お互いのストレスを減らすことができる。つまり、問題となる物理的職場環境を改善すると、結果的にハラスメント予防につながると考えてほしい。

また、一般に「スメルハラスメント」と呼ばれる現象については、個人の体質によって体臭の強弱は異なるので「あの人の体臭が不快だからハラスメントだ」と訴えるのはむしろ人権侵害になるため、私たちはこれをハラスメントと括ることは問題だと考えている。だからといって、周囲の人が我慢し続けると職場環境は改善しない。

マナー講習では、「職場では無臭を心がけると良い」と言われるが、それを基本線にして対策しよう。体臭については、健康状態や衣服の清潔さなど複数の要因が考えられるため、上司は本人の体調に配慮しつつ周囲への影響も率直に伝え、その人や職場に合った改善方法を探ってほしい。

空調問題も同様で、いつも同じ席に座ることでずっと寒い(または暑い)のがストレスならば、席を自由に変えられるフリーアドレスを部分的に導入したり、リモートワークにしたりするなど、それぞれが仕事に集中できて、実務に影響のない方法を取り入れてみよう。

パワハラの訴えの背景に、「役割の曖昧さ」による不安や不満の増大も挙げられる。職場全体が「とにかく今この作業をやる」「とりあえず以前と同じようにこなす」など、業務の目的やゴールが曖昧な状況を許していると、「本当にこのままで良いのだろうか?」という不安や「こんな非効率のことをいつまで続けるのか」という不満が溜まりやすい。周囲に質問しても「とにかく何も考えずにやれ」としか言われなければ、やる気も失せてしまう。

また、「役割葛藤」もハラスメントを引き起こす。A上司とB先輩のいうことが真逆で、どちらの指示に従えば良いか判断できず悩んだり、放任型上司の元で何とか仕事を回さなければならなくなり、権限があるようにふるまった結果同僚から仲間外れにされたりすることもある。

予防策としては、上司がそれぞれの業務の目的と目指すべき目標を示し、それに向けてそれぞれにどのような役割があるのかを、適宜共有していくことだ。また部下から疑問や不満の声が上がった際には、改善すべき視点かもしれないと耳を傾け、一緒に考える習慣を付けてほしい。そうすることで、部下が安心して働ける環境を作っていくことができる。部下の声を生かす「謙虚なリーダーシップ」は、ハラスメントを予防する職場風土づくりに不可欠だと言えるだろう。

失敗を許す風土が大事

もう1つ、ハラスメント問題を引き起こしているのは「仕事の要求度」と「裁量権」のバランスである。なかでもハラスメントの訴えに関係するのは「裁量権の低さ」である。
カラセックの職業ストレスモデル(Karasek, 1979)によると、「仕事の要求度が高い」かつ「裁量権が低い」と高ストレス状態となり、メンタルヘルス不調を引き起こすリスクが高まる。新入社員や異動してきたばかりの人が、経験の少なさから自分で判断ができず、周囲の人に訊かないと仕事が進められない状況は、とてもストレスが高く自己効力感も低い。この段階で「こんなこともできないの?」と周囲から言われると、ダメージはより一層深刻になりハラスメント問題に発展する。

一方で、このことは自己裁量権が高いと多少の試練にも耐えられることも示している。たとえば、営業現場は厳しいノルマが課されていることが多く「目標未達なら辞めてしまえ」などのパワハラ言動も散見されるが、いつも上司と顔を合わせるわけでなく、外出先で時間のコントロールが自分でできる状態だと、耐えられてしまうこともある。パワハラ言動は許されないので改善すべきだが、自己裁量権の高さがそのストレスを軽減しているという部分は、別の意味で注目したい。
失敗を失敗と認めず、方向転換をしないことが強いリーダーだと勘違いしていないだろうか。あるいは、パワハラといわれることを恐れて無関心を装ってはいないだろうか。このようなリーダーシップ形態は、組織を混乱させ、会社を衰退させる要因となる。

つまり、現場の自己裁量権を拡大し、失敗を含めたさまざまな経験を積ませ育成していく組織風土が、パワハラ予防につながるのだ。専制型上司の「いつも自分が正しく、自分の思い通りにならないものはすべて否定する」という態度は、相手からどんどん裁量権を奪うことになり、その結果部下が疲弊しつぶれていく。これでは部下は育たず組織は衰退してしまう。

仕事任せる決断必要

これを打開するには、長期的な視点に立って部下の自己裁量権を増やしていくことだ。それは経営陣を含む上司が自分の裁量権を手放し、後進に任せていくことを意味する。これには大きな不安が伴うが、そのことに向き合い、自分自身は次の目標に向かうことを意識しないと、いつまでも自分が決定者として君臨することになる。それが会社の存続に本当に役立つのか、改めて自身に問うてほしい。
「風通しの良い職場」とは、単にコミュニケーションがよいだけでなく、新陳代謝が活発な職場ではないだろうか。さまざまな顧客のニーズや時代の変化に対応するためにも、部下にチャンスを与えて経験を積ませ、責任を引き受ける上司や経営陣こそが、ハラスメントのない職場風土を実現できるだろう。

労働新聞 第3355号 令和4年(2022年)6月6日
執筆:株式会社クオレ・シー・キューブ 取締役 稲尾 和泉

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