ハラスメント・インサイト人権デューデリジェンスへの取り組み課題

人権デューデリジェンスへの取り組み課題

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

これまでの連載はこちらをご覧ください。

人権デューデリジェンスに関する各国や企業の動き

近年、急速に注目を集めている「人権デューデリジェンス」。イギリス、ドイツ、アメリカなどでは法制化が進んでいますが、日本では現在、経済産業省において「サプライチェーンにおける人権尊重のためのガイドライン検討会」ということで、人権デューデリジェンスのガイドライン策定へ向けての動きが見られます。

企業活動において、サプライチェーンを含む人権遵守を、継続的にチェックし改善することを求められる時代に、各社が人権デューデリジェンスに関して実施している取り組み内容としては、「取引先の人権問題」、特に児童労働や強制労働について問題がないかを確認しているという企業が多い印象です。

確かに、労働環境が劣悪な発展途上国の企業との取引では、このような確認はとても大切で優先順位も高いでしょう。世界的にも、そのような労働を強いて販売している商品は不買運動の対象とされるなど、企業活動に大きな影響を与えています。

私どもは人権啓発のご担当者からのお問い合わせを常時受け付けております。お問い合わせはこちらからどうぞ。

人権デューデリジェンスに関して企業が押さえておきたいポイント

一方で、人権デューデリジェンスには自社や自社グループの従業員の人権問題も含まれます。ハラスメント問題に携わっていると、サプライチェーン上にある他社の従業員のまえに、自社の従業員の人権問題がどうなっているのか、心配になることがあります。

例えば、日本でよくみられる長時間労働は、諸外国から見れば「人権」に関わる問題です。サービス残業が法令違反であることは自明ですが、そもそも残業という働き方があることが異常であるという感覚が、私たちの中にどれだけ根付いているでしょうか。

人権とは、誰もが生まれながらにして平等に持っている、自分の人生を自由に選ぶことができる権利です。働く人の人権とは、誰にも能力発揮を妨げられることなく、安心して働く権利といえるでしょう。定時に帰りたい人には、誰にも遠慮せずに堂々と帰る権利があるのですが、帰ろうとすると「いいねえ、早く帰れて」などと上司や同僚から嫌味を言われてしまう。業務が終わっている人に対して、このようなことを言うのは人権侵害です。長時間労働が当たり前の会社は、当然のごとく取引先にもそれを求めてしまうでしょう。

人権デューデリジェンスというと、例えば海外のサプライチェーンや工場など自社外に関心が向けられがちですが、実は、われわれは自社内の風土や業務内にある人権侵害により敏感にならないと、サプライチェーン上にある人権侵害にも鈍感なまま対応することになってしまいます。最低限、定時で帰る人に「おつかれさまでした!」と気持ちよく声をかける職場にしたいものです。

この機会に、昔から日本企業の多くに根付いている企業風土や価値観を見直し、どのような人権問題が潜んでいるか、今一度整理してはいかがでしょうか。

私どもは職場づくりのご担当者からのお問い合わせを常時受け付けております。お問い合わせはこちらからどうぞ。

(2022年9月)

プロフィール

稲尾 和泉(いなお いずみ)
株式会社クオレ・シー・キューブ 取締役

2003年4月より株式会社クオレ・シー・キューブにてカウンセラーおよび主任講師。産業カウンセラー/キャリア・コンサルタント、精研式SCT(文章完成法テスト)修士、日本産業カウンセリング学会会員。厚労省「パワーハラスメント対策企画委員会」委員、人事院「公務職場におけるパワー・ハラスメント防止対策検討会」委員などを歴任。官公庁や民間企業における研修講師として登壇、全国紙・専門誌での執筆、インタビュー多数。専門はハラスメント、女性活躍推進、ダイバーシティなど。

著書

『上司と部下の深いみぞ~パワー・ハラスメント完全理解』(紀伊国屋書店)共著、『あんなパワハラ こんなパワハラ』(全国労働基準関係団体連合会)著、『パワーハラスメント』(日本経済新聞出版社)共著など多数。

その他の記事

お電話でのお問い合わせ

03-5273-2300

平日受付時間 10:00-17:00

フォームからのお問い合わせ

お問い合わせ