ハラスメント・インサイト「森保ジャパンとサーバントリーダーシップ」

「森保ジャパンとサーバントリーダーシップ」

『ハラスメント・インサイト』は、厚労省や人事院のハラスメントに関する委員会メンバーを歴任してきた弊社取締役・稲尾 和泉による連載です。
今日、人権やジェンダー、雇用形態、雇用環境、経営問題、心理、人間関係など様々な問題と複雑に絡み合っているハラスメント問題に関するインサイト(洞察)を読み解き、今、職場づくりで求められていることを、ハラスメント対策の切り口として示して参ります。

これまでの連載はこちらをご覧ください。

2022年のサッカーワールドカップで、日本代表チームは、優勝経験のあるドイツとスペインを相手にグループリーグで逆転勝利するという快挙を成し遂げ、日本中に歓喜の渦を巻き起こしました。目標のベスト8には惜しくも届きませんでしたが、森保ジャパンは世界のサッカー界に大きなインパクトを残したことは間違いないでしょう。そして、試合内容や結果のみならず、森保一監督の采配と決勝トーナメント敗退後の振る舞いが世界中で称賛を浴びたことは、深く印象に残りました。

采配については、試合の2日前に選手からの提案があったシステムを取り入れた練習をしたことが、あの逆転劇の背景にあったという記事を読み、いいと思ったものはどんどん取り入れる柔軟さと決断力に驚きました。

この森保監督の行動は「サーバントリーダーシップ」の一形態ではないかと、私は考えています。サーバントリーダーシップとは、これまでのトップダウンのリーダーシップとは真逆で、上司が部下に寄り添い、理解しながら成長を支援する方法で、部下の自律的な行動を促すと言われています。

従来型リーダーシップ

サーバント・リーダーシップ

強化試合でも、森保監督は選手から多くの情報や意見を聞き入れている様子がうかがえました。サポーターからは「選手が監督みたいだ」「采配に一貫性がない」など多くの批判も寄せられているようでしたが、結果は、これまでのサッカー日本代表のレベルをもう一段、押し上げる形になりました。

組織としての方向性を示しつつも、現場の部下たちの意見を取り入れて柔軟に変化させ、最後は部下のポテンシャルを信じて任せ、そして部下がその期待に応える、という好事例は、現代型リーダーシップの実践であったと感じます。

また、敗退後も、監督が選手一人ひとりに丁寧に声をかけ抱擁する姿や、現地まで応援に来たサポーターに向けて深々とお辞儀をする姿が称賛に値するとして、世界中のメディアが発信していました。

サーバントリーダーシップのベースにあるのは、「リスペクト=敬意」や「シビリティ=礼節」です。組織の上下関係なしに誰に対しても相手を敬い、感謝を伝えることは、信頼関係を築く基本中の基本です。一方、権力を握る上位者が部下たちに横柄な振る舞いをし、信頼関係が構築できない組織は、ハラスメントが発生しやすくなるのです。

そして最も大切なのは、こうした行為が誰かに強要されたものではなく、森保監督の自発性によるものだったことです。リスペクトやシビリティは相手に強要してしまうと、それはカスタマーハラスメントにも通じる風潮になります。そうではなく、自分が日ごろから周囲に敬意や感謝を伝えているかどうか、胸に手を当てて振り返ることが大切だと思うのです。

サーバントリーダーシップの実践は、ハラスメントフリー®な職場づくりにもつながります。部下に寄り添いながら成長を促すことが組織を活性化させ、業績アップにもつながる実例を、今回の森保ジャパンが示してくれたように思います。

2022年12月

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