社外相談窓口

ハラスメント対策最前線感情労働について(3)

Q.「感情の管理」と「我慢すること」は近いことのように感じます。パワハラ(パワーハラスメント)で言えば、「部下の成長を見守りたいが、我慢できず怒鳴ってしまう」となりそうですが、便利で我慢しなくてよい世の中において、感情の管理は難しくなっていませんか?
A.その通りですね。この問題は「感情管理」の重要なポイントです。次のような事例を考えて見ましょう。

上司が、部下にある仕事の指示をしたところ、納期が明日に迫っているのに、部下がやってきて、「実は未だノルマの半分しかできていないのですが・・」とおずおずと告白した場合、あなたが上司ならどうしますか?

■私たちの行動は、一般に「’認知or評価」→「分析」→「判断」というプロセスをたどることになります。この場合、あなたが、「何やっているんだ!困ったなあ。どうしよう」、という「不快」(怒り、嫌悪)な「感情」を持つ場合(大抵はそうでしょうね)、既にそれまでの経験から、上司の指示の中に、「彼(女)はそれぐらいのこと(○日までに仕事を完了する)ができて当然」という「認知or評価」が含まれており(ちなみに、この段階で、過大or過小要求をすると、いじめ・パワハラの問題となりますね。「円卓会議」提言参照)、それが「裏切られた」(「できるはず」という評価と「できない」という「現実」のギャップ)際に、「不快」な感情を抱くことになるのです。

■ここまでは、多くの人が共有するプロセスですが、次の「分析」で違いが出てくることになります。まず「結果」を重視する分析があり、「こんなこともできないなんて」という感情の発露であり、いわば「行動を読む」パターンです。結果重視、忙しすぎる雇用の現場では、このようなパターンに陥りやすいですね。もう一つは「原因」を重視する分析であり、「何故彼(女)はこの程度のことができなかったのだろう」という疑問の提示であり、いわば「表情を読む」パターンであり、それまでの過程で、部下が発していた様々なシグナルをキャッチしていたか否かが分析の対象となります。

■これに続く「判断」は、前者では、「こいつって本当にできが悪いやつだなあ。こんなやつをこれからも部下においとけるのかなあ」と言う、対決・排除のパターンになり、これがパワハラ・いじめに結びつくことは明らかですね。他方、後者では、「何かいろいろ理由があったのだろう。コミュニケーションが足りなかったかなあ」という、部下への配慮が出てくることになり、適切な指導・助言(叱責も含む)が可能となるでしょう。後者のパターンを選択することは、辛抱のいることですが、それが部下からの信頼をえて、良い仕事に繋がると思いませんか?

■実はこのような行動科学に関する研究が、現在、「新しい認知症ケア」として注目を浴びてきているのです。パワハラ対策との関わりでも、興味ある研究ですね。

(2013年7月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年) ほか多数

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