社外相談窓口

ハラスメント対策最前線感情労働について(5)

Q.職場でのハラスメントは家族に連鎖するのでしょうか?
A.感情管理と家族のあり方について少し見てみたいと思います。

「夫源病」とは?

「夫源病」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
これは医学的な病名ではありません。40~60歳代女性の間で従来更年期障害とされてきた体調不良の原因の一つに、夫の無神経な言動によるストレスがあり、それらを、大阪市の医師・石蔵文信さんが「夫源病」と名付けたもので、頭痛、めまい、耳鳴り、気持ちの落ち込みなどが主な症状とされています(『妻の病気の9割は夫がつくる』より)。妻の心を傷つけ、心身に不調をきたすほど大きなストレスを与えているにもかかわらず、夫本人には、「妻を『傷つけている』」という自覚がないもので、主な言動として、「誰に食わせてもらっているんだ」という口癖、子供の悪い部分は全て「お前のせいだ」、今日あった出来事を話しても上の空、高熱で寝込む妻に「飯は?」と詰め寄る、自分は夜遊びをするのに妻には許さない、姑が言いたい放題でも見て見ぬふり等々、、、。

これらは女性の更年期障害等の疾患の原因についてのものであり、同医師は、「夫源病」は中高年の夫婦で、男性が仕事で働き、妻が専業主婦のいわゆる「片働き」家庭で、まじめだけど頑固な夫vs我慢強い妻の間で起こりやすいと指摘しています。しかもこれらは、今日共働きの間でも程度の差はあれ、共通の現象となってきているといえるでしょう。

ところで、これらは女性の更年期障害の疾病の原因に関するものですが、これらの夫からの「暴言」の数々は、今日いわゆるDV(ドメスティック・バイオレンス)といわれる行為であることは容易にわかると思います。

更にそれだけでなく、同医師によると、これらの「暴言」は、職場において特に上司が部下に行うパワーハラスメントに代表されるさまざまなストレスが、その一因と考えられると指摘しているのです。

「抑圧の委譲」― 連鎖するハラスメント

実は、家庭における夫から妻へのいじめ・パワハラ(パワーハラスメント)であるDVは、職場における上司から部下へのいじめ・パワハラと重なり合い、連鎖していると言えるものです。かつて政治学者であった丸山眞男は、この現状を、「抑圧の委譲」―立場の上の人間から受けたストレスを、自分より立場が弱い人間にぶつけて発散するーという言葉で表現しています(「超国家主義の論理と心理」『現代政治の思想と行動』より)。氏は、この言葉を戦前日本の国家秩序を分析する際に述べたものですが、職場から家庭へのハラスメントの連鎖を見事に説明していると思いませんか?

更にまた今日では、このようなハラスメントが感情を著しく侵害し、メンタル不全を引き起こすことも明らかになってきています。

ハラスメントは「感情」を侵害する

かつてアリストテレスは「人間は感情(喜怒哀楽)をもった動物である」(『弁論術』より)と述べたことがありますが、私達は職場や家庭などでは、たえず自己と他者の感情を管理(配慮)しながら行動をしているのであり、他者(部下や妻など)への働きがけは、他者の精神(感情と理性!)を通してのものなのです。

職場で上司が部下に向かって「お前はどうしてだめなんだ、バカヤロウ」と叱責し、部下である夫が家に帰って妻に「誰のおかげでメシを食っているんだ」と怒鳴るとき、私達は同じように、相手の感情を傷つけ、ストレスを与えているとして気付くべきではないでしょうか。

(2014年3月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年) ほか多数

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