社外相談窓口

ハラスメント対策最前線感情労働について(6)

Q.本当の意味で感情が揺り動かされる労働(たとえばクレーム処理など)とは別に、感情をマニュアル化し、表面的に用いる労働(たとえばファーストフード店)があるように思うのですが、それもいわゆる感情労働に当たると考えられるでしょうか?
A.サービス業と感情管理労働について見てみたいと思います。

感情管理労働は、これまで述べてきた通り職場において相互にコミュニケーションを行う際に、自己と相手方との感情を管理(コントロール)しながら労働することであり、この場合相手の「表情を読んで」「自らが演技する活動」を意味しており、それを図示すると次のようなものとなるでしょう(図表。したがって最近はやりの「気配り」や「おもてなし」などは、感情管理労働の一部をなしているにすぎません)

コミュニケーションとマニュアル

ところでコミュニケーションは、情報、意思、感情などを受け取ったり伝え合うことを意味しており、その媒体として私達は言葉と身体動作を用いることになりますが、一般に言葉による場合は3割程度、残りの7割は身体的動作や態度などの言葉以外の手段によると言われています(R.バードウィステル)。接客活動においては、このような言葉、動作とその他コミュニケーション全般が、マニュアル化の対象とされることになり、この場合、感情を伴った「演技」が重視されることになるのです。例えばファーストフード店のマニュアルには、必ず「にっこり笑って」「いらっしゃいませ」と言うことが記載されることになり、このようにして感情管理が重視されることになります。
特にファーストフードやスーパー、デパートなどのサービス業での接客活動は、顧客の感情管理が中心となっており、これを怠った場合のトラブルは、サービス提供において致命的となります。そのためこのような職種においては、感情管理労働のマニュアル化が不可欠となり、例えば前述した通り、店員が顧客に向かって、にっこり笑って「いらっしゃいませ」「こんにちは」と言い、マニュアルに沿って「相手の表情を読み」「演技」をすることが求められることになるのです。

感情管理労働とマニュアル

もっともこのように感情管理労働は、定型的なサービス提供がなされることが多く、マニュアル化が不可欠で容易な職種と、看護、介護、教職のように定型化が困難な職種があり、後者の場合にはマニュアル化が困難かつ不適切な場合もあります。そもそもマニュアルは、一般に仕事を効率化してマスターする目的で、事務処理の手続や顧客対応のノウハウなどを、過去の経験を踏まえて分かりやすく、一般に「こうしなさい」と書かれているものです。したがってマニュアルに慣れてしまうと、自主性の欠落したサービス提供に陥ってしまい、例えば顧客に突然怒られたり、想定外のトラブルの場合に、臨機応変な対応ができなくなることにもつながりますので注意が必要です。このように、現実のサービス提供がマニュアル通りに進展することはむしろ稀であるという認識の下に、マニュアルの作成と運用に際しては、「何故こうしなければならないのか」という根拠を示しつつ、応用力ある対応を可能にする工夫とマネジメントが必要となってくるのです。

(2014年7月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年) ほか多数

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