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ハラスメント対策最前線感情労働について(7)

Q.感情労働については、ケア産業を中心に語られることが多いこともあり、労働報酬というよりも「奉仕=ボランティア」的な要素を求められることが多いように思います。これが労働としての対価を伴うようになるためにはどのような課題があるでしょうか?
A.以下、三つの視点で考えてみたいと思います。

(1)「賃金」と「感情労働」

私達は日々仕事(労働)をする中で、その「対価」として賃金を受取りますが、仕事(労働)と「賃金」とはどのような関係にあるのでしょうか?工場や工事現場での肉体労働のように、時間の長さによって賃金が決まっている場合は、比較的簡単ですが、感情労働は今まで見てきた通り、量的評価はなく質的評価になじむものであることから、感情労働をどのように評価するかが問題となるのです。賃金は言うまでもなく、働く者にとっては本人や家族の生活を支える唯一のものであることから、雇用の継続と共に最大の関心事とされてきており、わが国でも賃金の確保のために各種の法規制をしています(労基法11条など)。
しかしながら、デパートや介護、医療などの顧客サービスを中心とする業務においては、顧客との関係の中で職務評価がなされることが多いことから、感情労働は、人事評価においても労務提供者の能力や成果の評価に関連して、賃金決定の重要な要素とされることになります。そこでそれらの決定方法を、あらかじめ労使間で決めておく必要が出てくることになるわけです。

(2)感情労働と人事評価

感情労働は、人事評価において「職務の役割」の一つである「対人関係力」として、表現力、レスポンス、交渉力などが評価の対象とされることが多いと言えます。例えばある大手デパートでは、「販売要員として必要とされる能力」として、「優れた販売の技術知識をもち、成果に結びつけていること」が評価要素とされ、具体的には、「いつもニコニコ、キビキビ、ハキハキと笑顔で親切な接客をしている」「素早くお客様の要望をつかみ、正確で迅速な販売をし、お客様に満足していただいている」「担当商品のセリングポイントをつかみ、お客様に満足していただける説明をしている」などが、高い評価点を占めることになり、ここでは、顧客管理のツールとして、感情労働である表現力が重視され、それが人事評価の対象とされているのです。
このように感情労働が人事評価の対象になってくると、これらの項目で評価を上げようとして、従業員が必要以上に顧客におもねたり、いわゆるモンスター・カスタマー対処を誤る一因となる可能性がでてくることになり、他方では従業員間で、目立った仕事に就きたがるなどのマイナス面がでてくることにつながり、さらに感情労働の評価は主観が入りやすいことから、人事評価に対して従業員からの不満が出てくることもあり得ることになります。

(3)公正な人事評価

以上に述べたことから明らかな通り、人事評価は公正なものでなければ従業員の納得が得られず、特に感情労働においては労働の質が重視されることから、客観的評価が難しい面を考慮し、評価基準を明示すると共に、評価される本人の意思をよく聞き、納得を得る手続きが求められることになります。

(2014年11月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年) ほか多数

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