ハラスメント対策最前線職場のダイバーシティ(3)

マタハラの実態と法規制

Q「マタハラ」が問題とされていますが、どのようなことが起きているのでしょうか?またそれは法でどのように対策がとられているのでしょうか?

「マタハラ」とは

「マタハラ」はマタニティ・ハラスメント(Maternity Harassment)の略の和製英語であり、働く女性が妊娠、出産に伴う就業制限や産前産後、育児休業等によって業務上支障をきたすことを理由として精神的、身体的な嫌がらせを受けたり、解雇や雇止め、自主退職の強要、配転などの不利益や不当な扱いを受けることを意味します。

マタハラの大半は、後述する通り均等法、育介法、労基法等に違反し、かつ不法行為を構成するものであり、女性労働者にとってはセクハラ(セクシャルハラスメント)、パワハラ(パワーハラスメント)と共に職場の3大ハラスメントと言われる不利益な扱いであるにもかかわらず、厚労省の実態調査(2015年)でも、働く女性の2割(21.4%)が経験しており、そのうち「休むんなら迷惑だ」「辞めたら」など出産や育児などを問題視する発言が半数を占めており、同年の連合の調査では、約6割が妊娠すると退職すると回答しています。このように妊娠・出産に関する法規制は比較的整備されて、マタハラ防止が企業に義務付けられてきているにもかかわらず、働く女性がこれらの制度を利用しようとすると、上司や周囲の同僚からの心ない言葉や態度(ハラスメント)により、仕事と出産・妊娠の両立を困難にしているのです。

このようにマタハラが増え続けている原因の一つとして、マタハラが違法であるとの立証が難しいという背景があり、仮にマタハラを受けて退職を余儀なくされても、労働者側が企業側に違法性を立証しなければならず、企業側が「雇用の打ち切りは本人の勤務態度が悪いからで、妊娠出産が解雇理由でない」「それに本人も同意しているでしょう」などと開き直られると、マタハラの立証はとても難しくなり、結果として多くの女性達が泣き寝入りを余儀なくされてきたのです。

このような状況に対して、まず企業に対する対策として、2014年の最高裁判決は「マタハラ=原則違法」との画期的な判決を下し、それを契機として厚労省は規制強化に乗り出し、さらに上司や同僚などからの行為に対しても、2016年3月成立した改正均等法、育介法により2017年1月から直接法規制をすることが目指されており、2016年4月からは女性の登用促進を目指した女性活躍推進法が施行される中で、ダイバーシティの推進にとって企業からマタハラの一掃が求められているのです。

マタハラと法規制

事業主に対するものとして、まず均等法9条で「婚姻・妊娠・出産等を理由とする不利益取扱の禁止等」が規定され、同条では、女性労働者の婚姻・妊娠・出産を退職理由とした定めをすること(1項)、婚姻を理由とする解雇(2項)、妊娠・出産、産前産後休業等を理由とした解雇その他の不利益取扱(3項)、妊娠中および出産後約1年以内の解雇(4項)がそれぞれ禁止されています。また育介法では、育児休業が性別に関係なく保障されており、その申出や取得を理由とした解雇その他の不利益取扱いが禁止されており(10条)、労基法も妊娠時に関して坑内業務や危険有害業務への就労制限、産前産後休業、育児時間等の保障を規定しているのです(6章の2)。

2017年1月1日から施行される改正均等法・育介法・派遣法は、「妊娠・出産・育児」や「家族の介護」などで、仕事を辞めざるを得なかったり不利益を受ける人をなくし、ひき続き仕事を続けられる職場環境を整備することを通して、男女の性などに関係なく、仕事と育児・介護の両立支援(ワーク・ライフ・バランス)を目指すものです。

具体的には、非正規労働者の育児・介護休暇を取りやすいように取得要件を緩和しており、介護休業については、今まで1回しか取ることができなかったものが、分割して3日まで取れるようになり、事業主は労働時間の短縮措置も設けなければならなくなっており、これらの法改正に沿って、就業規則や社内規定を整備する必要があります。

特にマタハラ防止措置に関しては、詳細な「指針」が出されることになっており、事業主は、①防止措置の方針を明確にし従業員に周知・啓発すること、②相談窓口を設置し必要な体制を整えること、③マタハラが起きた時は迅速かつ適切に対応すること、④マタハラの原因や背景となる要因を取り除くこと、⑤プライバシー保護や不利益取扱禁止措置を講じ、従業員に周知・啓発すること等が求められます。

(2016年12月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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