ハラスメント対策最前線職場のダイバーシティ(6)

性的少数者への差別・偏見除去は不可欠

Q性的少数者(セクシュアル・マイノリティ)の人々は職場でさまざまな差別やハラスメントをはじめ、暴力被害にも遭っているようですが、どのようなものですか?
A性的少数者の人々が、職場でさまざまな暴力被害に遭い、被害に晒されやすい状況にあることは、一般にあまり知られていません。私達の理解と支援の仕組みが必要です。

1.職場での暴力

職場での性的少数者に対する暴力は、さまざまな形態をとっており、例えばFtM(Female to Male 女性から男性へ:身体は女性でも、服装などは男性として勤務)のトランスジェンダーの人が、男性同僚から「お前は(身体が)女なんだからいいだろう」と言われて胸を揉まれたり、「お前気持ち悪い」「(本当は)女のくせに生意気だ」等のハラスメント被害が頻発しており、また女性従業員が、職場でレズビアンとカミングアウトした途端に、男性同僚から「(その性癖を)治してやる」「男を知れば変われるかも」等といってレイプされた被害も発生しています(LGBT法連合会HPより)。男性間でも、会社の社長(男性)から身体を触られたり、性的な話をされる等して、これを拒否したところ解雇されたケースもあるのです。

2.表面化しづらい暴力被害

性的少数者は、被害を告白してかえって家族や友人から援助を受けられなくなることをおそれ、その結果、暴力被害は顕在化せず、被害者は孤立しがちとなり、更に被害者自身が、加害者は男性、被害者は女性と思い込み、自らの被害を認識できないこともあります。
同性間の被害(特に男性間)については、「たいした被害でない」とか「抵抗しようと思えばできたはず」などの「神話」が横行しており、特に男性の性被害者の場合、被害に遭ったこと自体を忌避し、その結果としてPTSDやアルコール濫用・依存状態に陥ったり、希死念慮を抱きやすくなることが指摘でき、被害の深刻さは決して見過ごすことのできないものなのです。

3.対策の強化を

職場におけるダイバーシティを推進するうえで、性的少数者に対する差別や偏見を除去することが不可欠であり、そのためにはまず第一に法制度を含めた支援体制が必要です。ところがわが国では、未だに性的少数者の差別を禁じたり理解の促進を図る法律が存在せず、上記のような暴力被害者への対応は、全て警察や司法、医療機関等に委ねられており、しかもこれらの関係者も、性別少数者への理解や知識が不足していることが少なくなく、理解を深めるための研修等を受ける機会も限られており、そのため上記被害が放置される結果を招来しています。
職場における性的少数者の置かれている状況の理解と支援を深めていくことが求めらており、とりわけ使用者には、快適な職場環境を整備することが法的責務とされていることから(労働契約法第5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」)、企業のトップをはじめ従業員には性的少数者への配慮が求められているのです。

(2017年12月)



プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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