ハラスメント対策最前線「働き方改革」とワークライフバランス(4)

働き方改革・正規・非正規間の格差是正・均等待遇実現へ

Q最近、非正規格差をめぐって相次いで最高裁判決が出されていますが、その内容や課題について説明して下さい。
A2020年10月、最高裁は、正規・非正規社員間の「扶養手当、夏期・冬期休暇、無給の病気休暇等」の格差を不合理とする判決を出し、全国の非正規労働者の均等待遇実現に向けて大きな一歩を踏み出しましたが、多くの課題も残されています。

1.格差是正・均等待遇

「働き方改革」(「働き方改革」とワークライフバランス(1)参照)で政府は、「雇用形態にかかわりない公正な待遇の確保」のスローガンのもと、正規・非正規間の給与や福利厚生など労働条件の不合理な格差是正(均等待遇の原則)を目標の1つとしています。
そもそも「均等待遇の原則」は、戦後早々に制定された労働基準法で「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由に、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならない」(3条)と規定され、更にとりわけ男女間の賃金格差が著しかったことから、男女同一賃金の原則も規定されてきたものです(4条)。
しかしながらそれから70年以上経過している現在でも、男女間の賃金格差は、正規労働者間でも7割程度と依然として大きく(特に女性は出産・育児等を理由とする途中退職などにより管理職の割合が1割強であり、韓国と共にジェンダー度低位争いをしていることは周知の通りです)、それに加えて近年、非正規労働者の増加(非正規労働者は労働者全体の約4割を占め、そのうち女性の占める割合は約7割に達している)によって、正規・非正規間の格差拡大が問題となってきました。こうしてわが国では今日正規・非正規間の格差が大きな社会問題となり、これらの人々の格差是正が焦眉の課題となってきているのです。

2.最高裁判決

労働者間の格差是正・均等待遇は、国際的にも大きな流れとなっており、ILO(国際労働機関)は、「同一価値労働同一賃金」原則を確認し、日本政府も批准しており、この間の均等待遇を求める運動や裁判を受けて、雇用期間の違い(有期か無期かなど)を理由とする不合理な格差禁止を盛り込んだ労働契約法20条が施行されているのです(2013年4月、同条は現在パート・有期法に移行)。
労働契約法が禁止した非正規雇用労働者に対する不合理な格差是正を求める5つの訴訟で、最高裁判決は「ボーナスや退職金」について、正規社員の人材確保やその定着を図る目的として格差是正を認めず、自由裁量を確保したい経営側の主張を取り入れました。他方、各種手当等についてはそれぞれの手当の趣旨を個別に判断し、冒頭Aにある通り、「各種手当てを支給しないのは不合理」で違法としました。このように最高裁判決によって、手当・休暇手当等における格差是正の流れは固まり、また賞与や退職金についても不合理な場合があり得ることが認められています。
したがって私達には、厚労省の指針等も活用して、職場での正規・非正規間の格差是正・均等待遇をめざして、これから一層の努力が求められていると言えるでしょう。

(2020年12月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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