社外相談窓口

ハラスメント対策最前線「働き方改革」とワークライフバランス(5)

Q.コロナ禍の中でハラスメントやDVなどの女性に対する性暴力、ジェンダー格差が拡大していると言われています。どうしたらよいのでしょう。
A.固定的な性的役割分担意識や性差に関する偏見等を反映した既存制度や慣行を改め、誰一人取り残されない社会(SDGsの「宣言」から)の実現が急務となっています。

1.ハラスメントの横行

(1)新型コロナウイルスの感染拡大で不安が高まる中、感染にまつわる職場のハラスメントが増加しており、その内容は、暴言、無視等さまざまであり、特に女性や非正規に被害が集中し、退職を余儀なくされるケースもでています。例えば、発熱が続いたことから一週間欠勤し、PCR検査で陰性が判明したことから出勤したところ、上司から「体調が悪いのに出勤するのか」と出社を拒絶され、職場の相談窓口に相談しても何ら解決に向けた対応がとられず、退職を余儀なくされたケース(女性・契約社員)、子供の学校でコロナ感染があった際、会社から自費でPCR検査をするよう指示され、経済的に苦しいと言うと、解雇すると言われたケース(女性・正社員)、風邪で3日休んだ後出勤したところ、同僚から「コロナ野郎」と嫌がらせを受けたケース(男性・契約社員)など、さまざまなハラスメントが報告されています(共同通信2021年5月6日付)。

(2)2020年6月施行された女性活躍・ハラスメント規制法では、企業のパワーハラスメント防止対策が義務化され(中小企業は2022年3月末日まで努力義務)、これに基づいて厚労省は、コロナ感染を理由とした人格を否定する言動や、集団で無視して孤立させることなどはパワハラに該当するとしています。そのうえで、職場でのハラスメントを要因とする不安を払拭するために、企業が職場の感染症対策や対応を職場の全員に周知させることや、どんな行為が不適切かを改めて明示することを求めており、被害者から訴えがあった場合には、第三者からも聞き取るなどして事実関係を速やかに把握し、双方の関係改善に向けた援助等を義務付けています。
人は、何らかの不安があると、些細なことでも疑心暗鬼から他者を攻撃しがちになることがあり、企業は不安が増大しないよう感染時の対応を含めて情報共有する等の対策を講じる必要があります。

2.女性への暴力(Gender-based Violence)

(1)ジェンダー格差が世界的にみても大きいわが国の場合(ジェンダーギャップ指数は、156か国中120位)、コロナ禍の生活不安やストレス、外出自粛要請による在宅時間の増加等によるDVや性犯罪・暴力など女性に対する暴力の増加、深刻化が顕著になっています。
2020年平均の非正規労働者は、男性が前年より26万に減少したのに対し、女性はその倍近い50万人減少しています。特に女性働き手の割合が高い飲食・宿泊業やサービス業が打撃を受けたことにより、生活の糧をDV加害者に頼らざるを得ない女性達が、逃げることをためらい、被害を受けていることが一因となっているものと思われます。その結果、DV相談件数(2020年4月~2021年2月)は17万件を超えて前年同期の1.5倍に増加し、性犯罪・暴力被害の相談件数も前年同期の1.2倍に増加しており、被害の内容も、配偶者が給付金を渡してくれないとか、消費してしまったなど、従来は見過ごされがちであった精神的暴力や経済的暴力があぶり出されるようになり、女性の経済的自立の重要性があらためて問題となっています。

(2)かくして、2020年の自殺者は、男性が約1万4千人、女性で約7千人ですが、前年比で男性が減少しているのに比して、女性は約千人(935人)も増加しており、DV被害や介護疲れ等家庭内の問題を背景とした自殺の増加が顕著となっています。
わが国では、「働き方改革」のスローガンの下で、ワークライフバランスが叫ばれている今でも、男性が家計を支え、女性は補助的に働くのが標準的だとの社会通念(=思い込み!)に基づいて、社会保障や税制の仕組みが設計されていますが、共働きでの場合、非正規女性は世帯収入の2割、正規女性は4割を稼いでいるのが現状であり、今や女性が「家計の補助者」という認識を改める必要があります。
そのためには、固定的な性的役割分担意識や性差に関する偏見等を反映した既存制度や慣行を改め、誰一人取り残されない社会(SDGsの「宣言」から)の実現が急務となっています。

(2021年5月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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