ハラスメント対策最前線コロナパンデミック・DX時代の雇用と法律問題(2)

メタバースがビジネスに及ぼす影響

Qメタバース(仮想空間)がいよいよわれわれの生活でも普通になってきそうです。新たな働き方を考えるとき、人手不足であれば、外国人を入れたら?子供をもっと産んでもらったら?アバターを使ったら?というような意見がありますが、労働力がアバターにとって変わることはこの先あるのでしょうか?その場合どの様なことを検討しておかねばならないですか?根本的な体質改善(人手不足への対応)には何をするべきなのでしょう?
Aまさにこれからの働き方についての根本的な問題ですね。ところで今年に入り、メタバースとかVRなどという言葉が急速に広がっています。そこでまず、これらの基本用語の意味を明らかにしておきましょう。

1.メタバース・仮想現実(VR)とは

メタバースは、インターネットに構築された現実とは異なる3次元の「仮想空間」のことで、「メタ」(meta,「超越」又は「高次」)と「バース」(universe,「宇宙」)を組み合わせた造語です。メタバースの仮想空間は、コンピューターグラフィックス(CG)で制作され、CGを制作する「技術」のことを一般にVR(ヴァーチャル・リアリティ)と呼んでいます。
メタバースはVRの技術を使って生み出された仮想「空間」であり、メタバースとVRは「仮想空間」のいわばソフト(空間)とハード(技術)の関係にあるのです。

2.アバター(avater)

アバター(avater)は、「分身」を意味し、利用者が仮想空間の中で専用ゴーグルなどのVR機器を用いて、アバターを駆使してゲームをしたり、登場する動物の住民と遊んだり、SNSで他のユーザーとコミュニケーションを行ったりする際に利用するキャラクターであり、これによってまるでユーザー自身が仮想空間の中にいる感覚になるのです。

3.メタバース利用の広がり

メタバースは、コロナ禍の中で、対面でのコミュニケーションが難しくなっていたことから、ゲームやSNSのみならずショッピング(店舗)などにも広がり(例えばオンラインを通して遠くにいる友人や家族と一緒にバーチャル店舗で買い物を楽しむ)、更には近年はオンライン会議、社員研修、トレーニング等でも活用されるようになってきています。昨年10月にアメリカのIT企業フェイスブック社が、社名を「メタmeta」に変更したのは、このようなトレンドの象徴的出来事といえます。

4.メタバースとビジネス

メタバースが私達の生活に、より大きな影響を与えるものとして活用されているのは、実はビジネスや、労働の世界との関わりです。メタバースはインターネット上で自由にさまざまな商品やサービスを生み出すものであり、ビジネスについてみると「ビル」や「土地」、更には「お金」を作ることさえ可能とされます。既にそのようなビジネスが登場しており、日本でも例えば仮想空間の上に、見学可能な「メタバース住宅展示場」やショッピングモール、広告掲示板などが登場しています(これらの「商品」は、誰でもインターネットで検索できます)。

5.メタバース世界の広がり

メタバース世界は、私達の想像を超えるスピードで広がっているにもかかわらず(5年後の2028年にはメタバース市場は約100兆円、20年の20倍になると予想されています。2022年5月25日付日経新聞)、私達の生活、とりわけ働く者にとってどのような影響が出てくるのかの議論はこれからなのです(2021年7月経産省は、企業がメタバースに参入する際の法的リスクについて報告書を作成していますが、具体的解決等は示されていませんし、労働者に関わりのある厚労省は検討すらしていません)。今回は、メタバースの基本知識について述べましたので、次回はメタバースと私達働く者との関連について述べることにしましょう(続く)。

(2022年5月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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