ハラスメント対策最前線コロナパンデミック・DX時代の雇用と法律問題(3)

メタバース時代の雇用と就活の問題点

Qメタバースが雇用に与える影響はどのようなものでしょうか?具体的に述べてもらえますか?現在は採用活動が盛んですが、メタバースはどのように利用されているのでしょうか?
Aコロナ禍によってリモートワークが広がる中で、企業は仮想空間で働くことのできる「メタバースオフィス」を作り採用活動などさまざまな利用に広がっています。

1.メタバースでの「就活」

メタバースオフィスは、バーチャルオフィスとも呼ばれ、従業員同士が仮想空間上でコミュニケーションをとるためのもので、既に複数の企業で顧客との交渉や従業員同士での意見交換や採用などにも活用されるようになってきています。
採用活動の具体例は、バーチャル空間を活用して、オンラインで求職者を対象に、会社見学から入社後の研修などさまざまな活動を包括的に行うことができるようにするもので、企業は自社内にメタバースを構築し、二次元の閲覧用コンテンツを用いて、スライドや動画などで、空間内での会社説明会や採用イベントなどをライブ型で開催します。それに対して求職者はメタバースに入場して、アバターとして空間内を自由に動き回りながら、随所に置かれた社員の顔写真入りのアバターに近づくと、事前に録音した社員の雑談が聞こえる仕掛けになっており、会社情報が閲覧できるのです。しかもこのようなメタバースオフィスは二次元であることから、利用者はVRゴーグルなどの機器を用いることなくコンテンツにアクセスでき、空間内でアバター同士で会話をすることができるライブ型イベントに参加した場合には、企業の担当者とも気軽に話をすることができるというものです。既に2023年入社予定の学生らを対象とした内定式の会場に内定者がアバター(分身)で参加する方式で開く企業もあらわれています。

2.メタバース「就活」の問題点

もっとも企業がこのように「就活」に際してメタバースを活用したプログラムを用意しても、求職側はほとんど利用していないのが現状であり、その理由として「メタバースが何かわからない」「Zoomなどでオンライン就活ができている」「使いづらい」等指摘されています。確かにテレワークの導入が進み、Web上での会議や打ち合わせが浸透しつつあるだけに、一足飛びのメタバース空間での就職活動には、二の足を踏む傾向があるものの、数年後にはどのように変化していくのか注目しておきたいものです。
ところで、今年もまた人手不足から売り手市場となっている就職戦線も既に終盤を迎えているようですが、他方では、労働条件の提示抜きに一方的に求職者に採用内定を通知したまま放置したり、内定式に出席してみたところ、当初示された求人票と異なり「業務委託契約」となっている等の「ブラック企業」が横行しており、問題になっています。
企業の信頼性が問われる今日、ブラック企業に見られるような「大量採用大量退職(=解雇)」に対して、求職者はかなり注視しているところですので、コンプライアンスをはじめとした企業としての姿勢を今一度、見直すとともに、就活ハラスメントなどにも気を付けながら、これからの自社にふさわしい人材確保に努めたいところです。(続く)

(2022年10月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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