ハラスメント対策最前線科学的根拠をもとに進めるメンタルヘルス対策とハラスメント対策(9)

コロナ禍の在宅勤務とリモートハラスメント(リモハラ)

コロナ禍における企業の感染予防対策や労働者のメンタルヘルスの状況を明らかにするため、筆者は東京大学の研究チームと一緒に、全国のフルタイム労働者約1,500名を対象とした調査(新型コロナウイルス感染症に関わる全国労働者オンライン調査:The Employee Cohort Study in the Covid-19 pandemic in Japan [E-COCO-J])1を実施しています。2020年3月に初回調査を実施後、2021年6月現在に至るまで、3か月ごとに追跡調査を実施している縦断調査です。

コロナ禍においてテレワークや在宅勤務等のリモートワークが拡大する中、リモートハラスメント(リモハラ)やテレワークハラスメント(テレハラ)が話題となりました。そこで我々は、2020年11月に実施した第4回調査で、リモハラ・テレハラに関する詳しい調査を実施しました2

リモハラの項目は、これまで寄せられた体験談等から、計7項目を選定しました。パワーハラスメント(パワハラ)に該当しうる項目として、「就業時間中に上司から過度な監視を受けた(常にパソコンの前にいるかチェックされる、頻回に進捗報告を求める等」、「オンライン飲み会への参加を強制された」、「業務時間外にメールや電話等への対応を要求された」、「業務上必要性のあるオンライン会議に呼ばれない、仲間外れにされる等の行為を受けた」を聞きました。また、セクシュアルハラスメント(セクハラ)に該当しうる項目として、「容姿や服装、部屋の空間について言及された(「すっぴんもかわいいね」「僕好みの部屋だな」等)」、「業務上必要性のない1対1でのオンライン会議やオンライン飲み会に誘われた」をあげ、2020年4月から調査時点までの間に、どのくらいの頻度で経験したかを聞きました。

図1に、その結果を示します。「新型コロナウイルス感染症流行以降、一度でも在宅勤務を経験しましたか?」の質問に「はい」と回答した441名の労働者に対して、2020年4月から調査時点までの間に各ハラスメント項目を経験したかどうか尋ねたところ、経験したリモハラとして最も多かったのは「業務時間外にメールや電話等への対応を要求された」(21.1%)であり、次に「就業時間中に上司から過度な監視を受けた(常にパソコンの前にいるかチェックされる、頻回に進捗報告を求める等)」(13.8%)で、在宅勤務を行った労働者の1~2割が経験していました。パワハラの6類型で言う「過大な要求」に当てはまる項目であり、対面における接触機会が減った状況においても、ハラスメントの発生リスクは減少しないことが示唆されました。

リモートハラスメントを経験した労働者の割合

図1.コロナ禍でリモートハラスメントを経験した労働者の割合(%)

連合が実施した『テレワークに関する調査2020』3では、テレワークにより通常勤務よりも長時間労働になったと回答した人の割合が、半数超 (51.5%)であったことがわかっています。テレワークの場合自宅を職場とする労働者が多く、オンとオフの区別がつきにくくなることから、労働時間が長くなる傾向にあるようです。オンライン業務で移動時間がなくなったことから、これまでは移動時間の都合上集まりにくかった時間帯(例えば、7:00~、21:00~等)に打ち合わせの予定が入ることも珍しくなくなりました。やろうと思えば24時間仕事ができてしまう環境となり、そういった背景からも、「業務時間外にメールや電話等への対応を要求する」というようなリモハラが発生してしまうのかもしれません。業務時間外の連絡は基本的に禁止するなど、オンとオフをしっかりと分けるような取り組みや、仕事の進捗の見える化により、上司からの過度な監視を防止するなど、在宅勤務におけるハラスメント対策が求められていると言えます。

E-COCO-Jのホームページ1では、他にも、『職場での新型コロナウイルス感染症対策が労働者のメンタルヘルスと仕事のパフォーマンスに与える影響』、『メディア視聴とコロナ不安』等、様々な調査結果を報告しています。随時情報を追加していますので、ぜひホームページをご覧ください。

(2021年7月)

プロフィール

津野 香奈美(つの かなみ)
神奈川県立保健福祉大学大学院 ヘルスイノベーション研究科 教授
人と場研究所 所長
産業カウンセラー、キャリア・コンサルタント
財団法人21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント
専門は産業精神保健、社会疫学、行動医学。主な研究分野は職場のハラスメント、人間関係のストレス、上司のリーダーシップ・マネジメント、レジリエンス。

経歴

東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員、和歌山県立医科大学医学部衛生学教室助教、厚生労働省「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」検討会委員、米国ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員を経て現職。

東京大学大学院医学研究科精神保健学分野客員研究員、日本産業ストレス学会理事、日本行動医学会理事、労働時間日本学会理事。

著書(共著)

「産業保健心理学」(ナカニシヤ出版、2017)
「集団分析・職場環境改善版 産業医・産業保健スタッフのためのストレスチェック実務Q&A」(産業医学振興財団、2018)
「パワハラ上司を科学する」(ちくま新書、2023)*〔HRアワード2023・書籍部門 優秀賞〕

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