創立30周年記念コンテンツ社外相談窓口に寄せられる不安

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社外相談窓口に寄せられる不安

社外相談窓口に寄せられる不安

不安をどうマネジメントするか

前回はVUCA※1という先行きが不透明で変化の大きい時代では人々が不安を抱きやすいということについてお話ししました。そこで私どものハラスメント社外相談窓口に寄せられた最近の相談でVUCAが不安やハラスメントとどう関連しているのか考えてみました。

不安を無くすための努力が不安を増強

最近の相談からは「企画をまとめたいが調べ始めたらどこまでも情報が出てきてわからなくなる」「いろいろな人の意見があって何が正しいのかがわからない」など、多くの情報や意見に翻弄され、「自分のやりたいことが見つからない」「自分の意見がちゃんと言えるかどうか不安」と自分を見失っている様子が垣間見えます。不安を避けるために集めた情報のはずが、逆にそれによって知らない世界が多いことに気づいたり、正解や完璧を求めることで何が正しいのか分からなくなってくる。その結果自信を失い、更なる不安を生みだしているという矛盾を抱えています。やがてその不安を自分だけでは処理できず「上司がちゃんと指示してくれない」「認めてくれない」と不安は不満につながっているように見えます。

そのような状況で安心を得るのだとしたら、ルールや領域を決めるなどして枠を設けることで知らないことや間違いが少なくなり、安心が得られることでしょう。しかしそれらの枠は自分を苦しめることとなり、次第に他者にも向けられ、ルールを守らないものを罰する、排除するというハラスメントに繋がっていると考えられます。

このように不安を無くそうと頑張るのではなく「今の時代、不安を持つことは当たり前のことだ」と、不確実で曖昧なことを受け入れ、不安があるのは当然のことと割り切って考えてしまうことが一つの智慧なのではないでしょうか。

不安に気づかずハラスメントに

また、もう一つは「不安はないもの」として本当の自分の気持ちを認識していない問題があります。私は頻繁にパワハラを行ってしまった人々と接しています。その人たちは周囲から「大声で怒鳴る」「怒りをぶつける」など怖い人と言われていることが多いのですが、実はその言動の源となっているのは怒りというよりは不安の感情から出ていることがよくあります。非常に真面目でどんなことも嫌とは言わずに頑張って、自分自身がしたいことよりは、成績や周囲からの評価を第一としてきた人。そのような人ほど不確実で変化の激しい環境に順応しようとひたすら努力しています。しかし、ただ努力するだけでは目標が達成できず評価も得られないことに実は大きな不安を抱いているのです。また自分が大事にしてきた信念が伝わらない時に何とか伝えようと焦り、それが怒りとなっていることもあります。ただ残念なことに根底の気持ちに気づいておらず、その不安を怒りに置き換えて部下や周囲の人にぶつけてしまっているような傾向が見られます。不安というネガティブな感情にも気づき、それを周囲の人とも共有できればパワハラを避けることができたのに、と思うことがよくあります。

心理的安全性のある職場

VUCAの時代では「不安を持つな」ということ自体に無理があるのです。不安があるということを前提にして、その不安をどうしたら軽減できるか。不安があっても大丈夫という気持ちを持つことが大切だと考えます。
そのためには知らないことがあるのは当然、異質な考えがあって当たり前、失敗も許されるという職場風土をいかに作るかということが求められています。Googleが行った調査※2では生産性の高い職場は心理的安全性が高い職場であるという結果が出ています。Google といえばVUCA度が最も高い業界ということができるでしょう。業界によってVUCAの度合いに違いはあるかと思いますが、多かれ少なかれVUCAに対応する職場マネジメントにが必要になってくることは確かです。そう考えるとこれからは如何に心理的に安全な職場を作るかが経営者、管理者の大きな仕事となってくることでしょう。

不安との付き合い方

では個人としてはVUCA時代に対応する力をどう養っていったらよいのでしょうか?前出のGoogleでは日常的に禅を実践するマインドフルネス※3のトレーニングを取り入れているそうです。またアップルの創始者スティーブ・ジョブズが禅の実践者であったことはよく知られています。外的環境が不確実になればなるほど拠り処を自分自身の内面に求めることで心理的な安定が得られるということなのでしょうか。私自身もゲシュタルトセラピーという禅思想を取り入れた心理療法を学びましたが、五感をとおして世界とつながること、自分の内面と触れ合うことでリアルな自分の存在を確認できたという実感があります。どうも禅の「今、ここ」に集中するマインドセットがVUCA時代に役立ちそうです。またうつ病の治療方法のひとつである認知行動療法の考え方も客観的に自分を見ることができて不安との付き合い方の参考になりそうです。
VUCA時代では過去でも未来でもなく「今ここ」の自分を大切にすることが大切なのではないでしょうか?

  • ※1. Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguityの略
  • ※2. re:Work ? The five keys to a successful Google team
  • ※3. チャディー・メン・タン, サーチ・インサイド・ユアセルフ: 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法. 2016, 英治出版.

(2019年2月)

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