ハラスメント対策最前線「働き方改革」とワークライフバランス(6)

「女性不況」からジェンダー平等社会へ

Q「生まれ変わったら男性と女性、どちらがいいですか?理由も一言お願いします」。
A「生まれ変わらないことを願います。どうしてもそうなるとしても、私は女性に生まれ変わる勇気はありません。どんな困難な生だろう、と怯えてしまいます。」(大江健三郎『作家自身を語る』新潮文庫404頁、2007年)

1.コロナ禍と「女性不況」

コロナ禍で女性の貧困化と非正規化が、改めて浮き彫りにされ、「女性不況」(令和3年度内閣府「男女共同参画白書」)と呼ばれるように、サービス業を中心に女性の非正規労働者が深刻な打撃を受けると共に、ひとり親の苦境や貧困の顕在化等により、「男女共同参画の遅れが露呈した」状態となっています。
企業中心社会のわが国では、長時間労働によって生産性を向上させて利益獲得を図る論理が主流を占め、その結果として、「男は仕事、女は家事・育児」という性別役割分担が固定化し、女性達は、結婚・出産退職制度などで非正規雇用を余儀なくされ、一方では“ケアレスマン”の男性達も、異常な長時間労働の中で過労死・自死をもたらし、共に“幸福度”の低い生活を余儀なくされています。他方世界は、あらゆる問題・課題を、ジェンダー視点でとらえ、作り直していくという、ジェンダー主流化が、SDG’s(持続可能な社会づくり)とセットで進んでいます。
誰もがそれぞれ経済的に自立し、家族ケアを分かち合い、自らの人生に責任を持てる ― ケアの重要性が認められ、優しさが発揮できる ― ジェンダー平等社会の実現が求められています。そこで女性の「非正規化と貧困化」の現実は、前回、「働き方改革」とワークライフバランス(5)で触れましたので、今回はその背景を述べてみることにしましょう

2.女性達の非正規化・貧困化の背景 ― 「M字型から逆L字型」へ

(1)共働き世帯の増加 ・・・ 現在共働き世帯が7割に達し、30年前には全世帯の7割が専業主婦世帯であったものが、比率が逆転しています(図1)

図1 共働き世帯の推移

言うまでもなく、女性の就業者が増加したことによるものであり(約2千万人から3千万人に増加)、それに伴ってジェンダーがクローズアップされる背景となってきたのです。

(2)女性のM字型雇用 ・・・ 日本の女性の就業は従来「M字型」と呼ばれ、出産・育児期に低下していましたが、保育の受け皿拡大等を背景に、今や全体として、男性や欧米の女性、日本でも未婚の女性と同様で逆U字型へと移行してきています。

(3)正規雇用では、逆L字型 ・・・ ところが、女性の正規雇用についてみると、出産前後の年齢で大幅に下降し、30才代以降では、非正規雇用が中心の「逆L字型」となっています。正規雇用から一旦離職した女性達が労働市場に復活するときは、圧倒的に非正規雇用となっているのです(図2)。

図2 女性の年齢階級別の労働力率の内訳

(4)非正規化で1億6千万円の生涯賃金喪失 ・・・ 一旦非正規になると処遇は劣悪になります。今日「ライフスタイルに合わせた多様な働き方」「女性の活用」が叫ばれていますが、生涯賃金では、正規男性社員の2億5千万円に対し、非正規女性社員(大卒30歳で出産、3年ブランク後非正規雇用)は9千万円と大幅な賃金格差が生じています。人生はさまざまで離婚も増加しており、一旦非正規化すると貧困からの脱出は厳しいのが現状です。

3.ジェンダー視点の社会を

私達はコロナ禍との戦いの真最中にいて、ケアの重要性が認識されています。今こそジェンダー視点でケア社会にふさわしい、誰かに依存しなくても、個人単位で人間らしく生活できる賃金が保障されるべきであり、最低でも時間当り賃金は男性と同等とすべきことが求められています。

(2021年9月)

プロフィール

水谷 英夫(みずたに ひでお)
弁護士 (仙台弁護士会所属)
1973年 東北大学法学部卒業

著書

「コロナ危機でみえた 雇用の法律問題Q&A」(日本加除出版、2021年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策(第5版)」(民事法研究会、2020年)
「第4版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス パワハラ防止法とハラスメント防止義務/事業主における措置・対処法と職場復帰まで」(日本加除出版、2020年)
「第3版 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス マタハラ・SOGIハラ・LGBT/雇用上の責任と防止措置義務・被害対応と対処法」(日本加除出版、2018年)
「AI時代の雇用・労働と法律実務Q&A」(日本加除出版、2018年)
「改訂 予防・解決 職場のパワハラ セクハラ メンタルヘルス」(日本加除出版、2016年)
「QA 労働・家族・ケアと法-真のWLBの実現のために-」(信山社、2016年)
「職場のいじめ・パワハラと法対策」(第4版)(民事法研究会、2014年)
「感情労働とは何か」(信山社、2013年)

その他の記事

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