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海外ハラスメント問題第2弾「インド社会における職場のいじめの現状」

第2弾「インド社会における職場のいじめの現状」

今回は、職場のいじめとハラスメント国際学会(2012年6月13~15日 コペンハーゲンにて開催)で出会った、インドにおけるハラスメント研究の第一人者、プレミラ・ドクリュズさんからお伺いしたインド社会における職場のいじめの現状について、ご紹介させていただきます。

インド社会における職場のいじめの現状~プレミラ・ドクリュズ インド・マネジメント・インスティテュート准教授に聞く~

Qインドでの職場のいじめの現状についてお聞かせ下さい。
Aインド社会において職場のいじめはまだまだ新しい分野で、したがってその対策や取り組みなども新しい領域です。このことはまず、一人ひとりが職場のいじめというものとインド社会との関わりについて理解を深めることで前進するのだと思います。
Qインドの社会文化は多様でたとえばカースト制度がありますが、それとハラスメントとの関係性についてはいかがですか?
Aインド社会は多くの文化的矛盾と複雑さをかかえています。多様なカテゴリーをはらみ、きわめて階層的であると同時に、とても相関的な社会でもあります。さらにここに、個人主義と集団主義が合わさったような状態と、宿命的な様相も加わります。

インドにおけるいじめは、性別・カースト・宗教といった社会アイデンティティーの視点で捉えても理解できないのではないかと思います。たとえば、ある人が下級階層に属しているがゆえに、あるいは、自らの人生が宿命だと思っているがゆえに、自分に対して虐待的行動を相手がとるであろうことを当然のこととしている人もいるのです。

こうした状況から、職場のいじめを、人々がどのように体験し、どのように捉え、またそれが、どのように取り上げられているかについて理解することは、インド特有の社会力学によってとても複雑で困難なものにしています。
Q職場のいじめを防止するために、チャレンジしていることはどのようなことですか?
A職場のいじめを予防し、解決し、改善するのは大きな課題です。何よりもまず、「職場のいじめ」という現象がインド社会に存在するということに気づいてもらことが重要であると考えています。そのためには、一人ひとりの理解を深めるべく、よりいっそうの努力が必要というのが現状だと思います。

プレミラ・ドクリュズ Premilla D’Cruz

インド、アーメダバード市にあるインド経営大学アーメダバード校Indian Institute of Management, Ahmedabad, India准教授
専門は「組織行動」。「マイクロ組織行動」と「職場のクリエイティビティ」の授業を受け持つ
ムンバイのタタ・インスティテュート(Tata Institute of Social Sciences)で社会学博士号を取得し、職場のいじめ、組織における感情、個人とアイデンティティ、組織コントロールなどを調査・研究している

プレミラさんは、2009年、ポーツマスビジネススクール・ヒューマンリソースマネジメント学部のシャルロット・レイナー教授(Charlotte Rayner, Portsmouth Business School)とともに、インドで初めて職場のいじめに関する調査を実施されました。調査対象として、海外(特に英語圏)からのアウトソーシング先であるコールセンターを選び、そこでの職場のいじめの発生率を調査されたということです。人格を否定するようないじめ、職場のいじめへの組織としての対応、ターゲットと傍観者、職場のいじめという体験といった事例を研究し、その取り組みはインドにおいてきわめて先駆的なものとなりました。

職場のいじめとハラスメント国際学会での発表

  • 発表者:プレミラ・ドクリュズ
  • 発表タイトル:職場の人間関係と経営イデオロギー:傍観者の行動の決定要因として
  • 調査対象:海外からのアウトソース先としてのコールセンター
  • 調査目的:傍観者(バイスタンダード)たちがいじめを目の当たりにしたときの、心の動きを定性的に捉える
  • 調査方法:インタビュー形式でヒアリング
  • ヒアリング概要:
    ・個人として職場でのいじめをどのように目撃し、体験したか
    ・ターゲットのために何をしたか
    ・傍観者としてそれが自身にどう影響し、どうその体験に対処したか
  • 傍観者とは:「職場の観察者で、いじめのターゲットをサポートするという理由で、いじめられやすい立場になる人たち、そのことで自らを職場環境から分離し、否定的な結果に対処しなくて済んでいる人たち」であると発表の中で定義づけられている
  • 調査の知見:調査に参加した傍観者たちの体験は、友情を優先するか、自身を優先するかという大きなテーマを内包している「helpless helpfulness(無力な助け)」という概念で捉えることができる。 傍観者はターゲットへの友情から、いじめに遭っているターゲットのことを完全に守りたい、いじめを根絶したいという思いを抱く。しかしながら、経営管理層への反応として、自分たちのその気持ちに歯止めがかかってしまう。また、人事部が経営管理層の施策を取り入れていることから、ターゲットを助けたいという傍観者の思いが抑止される。こうした体験を経て、傍観者たちは、限界、戸惑いとの葛藤、罪悪感、自責の念など、痛恨の思いを味わっている。
  • まとめ:今回の研究は、職場の人間関係と経営イデオロギーとの関連性が、傍観者たちの決断、行動、そしてその結果へ影響を及ぼす、ということをあらためて浮かび上がらせた。傍観者への介入や研修は、職場のいじめの防止策および健全な職場づくりのためにもっとも実行可能な解決策と考えられるが、それらは、まず最初に経営管理層に働きかけて、初めて成功すると考えられる。

レポーターの感想

プレミラさんの発表で、特に印象に残っているのは、ハラスメントに遭った被害者に付き添おうとする同僚の話です。
社内の人事部に被害者が報告に向かう際、誰か(味方となる人)がついていってあげたほうが良いと一般的にインドでは思うようなのですが、今回の調査で、「傍観者」の立場にいる人は、自分もいじめられるのではないか、あるいは会社からの評価が下がるのではないかと恐れ、付き添ってあげることができなかった人がいたそうです。

・・・会社の外では寄り添えるけれども、社内では同僚を守りたくても自分が被害に遭うかもしれないから怖くて何もできない。被害に遭った同僚は逆に自分たちのことを心配し、自分はなんて小さな人間なのだろうと思う。被害に遭った同僚は、一緒にいてくれないと言って自分たちを責めることもなく、むしろ自分たちのことを心配している。自分は臆病者だ・・・

会社でいじめを目の当たりにして、なすすべもなく悲嘆にくれている傍観者の声です。

私はこの話を聞いたとき、文化の違いこそあれ、報復に対する恐怖、自責の念や無力感など、人間の感情というものは国を超えて人々が共感できるものであるという認識を新たにしました。
もともと大学時代に心理学を専攻していたプレミラさんは、こうした傍観者たちの感情を一つ一つ明らかにすることで、職場のいじめという現象を、感情という切り口でわかりやすく紐解いて見せているのかもしれません。こうした努力が、まだ職場のいじめというものをよく知らない人たち一人ひとりの理解を深めていくのだろうと思いました。

プレミラさんの主な著書

  • 職場のいじめに関する実証的研究をまとめた「インドにおける職場のいじめ」(Workplace Bullying in India / 2012)
  • プロフェッショナリズムという意識(インドのコールセンターでの従業員のアイデンティティについて)(Employee Identity in Indian Call Centre: The Notion of Professionalism / 2009)
  • 仕事における創造性を考える(Thinking Creatively at Work: A Sourcebook / 2008)
  • HIVエイズのファミリーケア~生きた体験を探る(Family Care in HIV/AIDS:Exploring Lived Experience / 2004)
  • 病める時も健やかなる時も:インドにおける家族のHIVエイズ体験(In Sickness and in Health: The Family Experience of HIV/AIDS in India / 2003)

この特集内容に関するご質問やご要望などございましたら、お気軽にお寄せくださいませ。

レポーター 岩崎 マーガレット 葉子

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