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ビジョナリー対談ソニー銀行株式会社 代表取締役社長 石井 茂氏

Vol.04 ソニー銀行株式会社 代表取締役社長 石井 茂 氏 社員個人と会社が共に成長していくためにはお互いの「軸」が合っていなければいけない

「自立した個人のための資産運用銀行」をキャッチフレーズとして、2001年に設立されたソニー銀行。その創業者である石井茂社長は、社員個人と会社とが一緒に成長していくことを理想とし、①企業理念を理解・納得すること、②自由豁達かつ愉快に働くこと、③自分の役割にコミットすること、④他人に親切であること、⑤自立した個人として仕事に向き合うこと――などを社員たちに求めています。石井社長のそうした思いは、私たちクオレ・シー・キューブの提唱する「ハラスメントフリー」にも通じるものです。

自由豁達で愉快に働くために必要なこと

岡田康子 クオレ・シー・キューブ(以下、岡田):
御社とは2007年からハラスメント研修等でお付き合いをいただいています。私たちが提唱する「ハラスメントフリー」は、職場にハラスメントがない状態をつくるだけではなく、もっと活気ある職場づくりを目指すものですが、それは御社の企業理念である「自由豁達で愉快な業務環境を整備する」にも通じるところがあるように思います。

石井茂氏 ソニー銀行(以下、石井氏):
一緒に働くのならやはり楽しい方がいいと思います。ただし、「自由豁達」というのはとても難しくて、自立した個人がベースにないとわがまま・好き放題になってしまうリスクもはらんでいます。そこのところは、何か歯止めというか、自覚は持ってもらわなければいけないのですが、働く環境においては仕事の充実感や達成感、同僚と一緒に働く喜びみたいなものがあった方がいいと私は素直に思うんです。少なくとも自分が会社を創るという機会があるなら、そんなふうにしたいと思っていました。

岡田:
どうすれば、うまくいくでしょうか?

石井氏:
コミュニケーションに尽きると思います。ただし、コミュニケーションには自分を伝える難しさや、相手の話を聞く難しさ、そして、相手の事情をどこまで理解するかという難しさがあります。口で言うほど簡単なことではありません。
私がとても大切にしているのは、「認知の多様性」や「志の統一性」といった考え方です。組織としては多様な人や多様な観点が欲しいですし、その方が健全なあり方だと思います。ただし、「志」の部分まで多様だと、組織はバラバラになってしまう。
重要なのはそのバランスの取り方であって、私が企業理念をしつこく言うのは、そこが私たちのベースであり、何かあったら立ち返ってほしいと思っているからです。

岡田:
今、社会でも多様性が大事と言われていますが、まさに社長のおっしゃる認知の多様性がなければならないと思います。ハラスメントの行為者が他人を攻撃するのは、自分の中の認めたくない部分や理解できない部分があるときです。自分の中の多様性を認めないとダメなんですね。それを「内なるダイバーシティ」といっているのですが、それは認知の多様性と密接な関係がありますね。

利他的であることは強いと証明したい

岡田:
石井社長は職場を「舞台」に例えていらっしゃいますが、私たちも、同じように捉えて演劇的な要素を取り入れた研修プログラムを展開しています。石井社長は、そのお考えをどのようにお伝えになっていますか?

石井氏:
一つは「理念に沿って行動しているかどうか?」、もう一つは「自分が期待されている役割を果たしているかどうか?」という問いかけです。「役割」とか「演じる」と言うと、何か表面を取り繕うような印象があるかもしれませんが、そうではなくて、その役割に芯からコミットしていくことが大事だと思っています。

岡田:
自由闊達で楽しくありながらそれぞれの役割を果たしていこうということですね。とはいえ最近は個別の評価が重視されるようになって、それぞれが自分が不利にならないように権利を主張し、競争しあう職場になっているかと思いますが、そのあたりのバランスはどうお考えですか。

石井氏:
そこは本当に基本的なことだと思うのですが、人は「親切」な方がいいでしょう? 利己的か利他的かという話になったら、やはり利他的な方がいい。その方が自分にメリットがあるというよりは、その方が自分にとって心地よいだろうと思うんですね。意地悪をしたときって、自分の気持ちも辛くなるじゃないですか。
「そうやると(同僚を甘やかすことになって)どんどん自分に仕事が降ってきてしまう」という議論にもなりますが、そこも含めて仕事の評価は出てくるものだと思います。
だから私がよく言っているのは、「その人の評価というのは、やはり近い人、一緒に働いた人でないとわからない」ということです。本当に苦しいときに助けてくれる人なのか? 逃げてしまう人なのか? 必ずしも手助けするということでなくても、「その人がいるとチームがうまく回るよね」と言われるような存在であるのか? といったことは成果だけで見ているのではわからない。その評価の仕方はとても難しいですけれどね。

岡田:
そうした考え方は、長年されていらっしゃる気功や太極拳とも通じますか。

石井氏:
共通しています。基本的に相手と行うことなので、ごまかしが利かないところがありますね。

岡田:
これからの時代は、石井社長のお話からうかがえるコミュニケーションの考え方、人としてのありようが、ますます重要になると思います。

石井氏:
話が変わってしまうかもしれませんが、「人類は心の面でも進歩しているのか?」という課題を考えたときに、私は緩やかに進歩していると思っています。
歴史的に見ると、今の方が社会が人に対して優しくなっていると思っていて、先ほどの「親切」の話に無理に結びつけると、「利他的」であるのは人類の進歩だと思うんです。
企業経営をする上で、そこだけを強調してしまうと、競争の中で負けて行くこともあります。しかし、私は「利他的であることが強いんだ」ということをどこかで証明したいと思っています。企業である以上、お金を稼がなければいけないのですが、では稼ぐだけでいいのかということも一方にはある。要はそのバランスであるわけです。現実的には、それができていないので恥ずかしいのですが……。

岡田:
御社は、「日経金融機関ランキング顧客満足度8年連続1位」、「銀行業界初のHDI-Japan(ヘルプデスク協会)主催 問合せ窓口 五つ星認証」などを獲得していますが、それもお客様に対する優しさが、形として表れているように感じます。

石井氏:
だからこそ賞をいただいたのは嬉しいですね。

理念に納得しているから仕事が充実する

岡田:
仕事や職場に対して、必ずしもお金やポジションではない「自分の心地よさ」や「充実感」のようなものを求めている社員さんも多いのでしょうね。

石井氏:
社員が、この会社で働いてよかったと思うのは、すごく充実感があったり、仲間に恵まれるといった部分だと思います。もちろん、経済的な満足も重要ですが、どれか一つだけではダメだと思います。やはり働いている人が自分のしていることに納得し、コミットしていないと、細かなところで判断を間違えると思うんですね。
そのためには「軸」となる理念が絶対に必要で、それを全うできたときには自分なりに納得感があります。先ほど「志を一つにする」と申し上げたのは、この軸(目指す方向)が自分の中で納得できていないと、どうしたって不満が出てくるからです。
私は、ソニー銀行を創るにあたっては、「この銀行がダメなら日本人もそれまでだな」という思いで始めました。短期的にはもっと利益になる銀行はたくさんあると思いますが、私たちは中長期にお付き合いいただいたときに、決してお客様の期待を裏切らない銀行を創ろうと思いました。
もし私たちの会社の経営が成り立たないとすれば、それは目先の利益を支持する人たちばかりだったということですから、そのときは仕方ない、と考えたのです。
幸いなことに当社は現在も成り立っていますから、私たちの理念を理解してくださっているお客様が一定数いらっしゃったのだと思っています。

岡田:
個人の成長という部分で、自己研鑽についてのアドバイスをいただけますか。

石井氏:
偉そうなことは言えないのですが、私は個人の成長と会社の成長が一致する形が望ましいと思っていますので、「自分のやりたいことは何なのか?」ということを自分自身に問うた方がいいと思います。
もう一つは、自省を忘れないこと。有効だと思うのは一日に一回くらい「今日のアレはどうだったのか?」と振り返ってみることです。何があったのかという事実を振り返るのも大事ですが、《そのときにどういう感じだったのか?》という部分を振り返るのです。
例えば、「実は自分ではわかっているけれどついやってしまった」とか、「本当は別の方法があるのに、自分の得意なやり方でお茶を濁した」といったことです。そういうことを少しでも振り返ることができると、人は結構変わると思います。

岡田:
それはハラスメントフリーな職場をつくるためにも重要なご指摘だと思います。貴重なお話をありがとうございました。

(2015年4月)

石井 茂

1978年山一證券に入社。同社破綻の際には最後まで会社に残り、役割を全うした。1998年ソニー入社、2001年にソニー銀行を設立し、代表取締役社長に就任。企業理念の第一に「フェアである」を掲げる。著書に『決断なき経営―山一はなぜ変われなかったのか』(日本経済新聞社)。

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