ビジョナリー対談日本ATM株式会社 代表取締役社長 中野 裕 氏

Vol.09 中野裕氏(日本ATM株式会社 代表取締役社長)

日本ATM株式会社(ATMJ)様は1999年、大手外資系IT企業の日本のATM部門から独立・創業されました。このとき「銀行ATMの監視共同化」というビジネスモデルと分社化を海外の本社に対して提案されたのが、同社代表取締役社長の中野裕様です。ATMJグループの目指すもの(DNA)として、①オープンな風土、②起業家精神、③社員(社会)への貢献――の3つを挙げ、社員に対しては自立的な働き方を求め、「自分がやりたいことは自分で決める。会社がその場を提供するから」と話される中野氏に、弊社・岡田康子がうかがいました。

「自分がやりたいことは自分で決める。会社がその場を提供するから」

岡田康子 クオレ・シー・キューブ(以下、岡田):
まずは創業のときのお話をお聞かせください。

中野 裕氏 日本ATM株式会社(以下、中野氏):
海外の本社に、銀行ATMの監視を共同化するというビジネスモデルを持って行き、「別会社を作りたい。二つの銀行さんの了解は得ている」と申し出ました。最初は20人くらいの予定でしたが、「作るならATM関連の保守要員を全部連れて行くのが条件」という話になり、360人ぐらいの人を連れて出たんです。

岡田:
そのとき、中野さんはおいくつだったのですか?


中野氏:
37歳でした。ビジネスモデルを考えたのが35歳です。

岡田:
普通、ベンチャーを立ち上げるときは小さくやっていくものですが、いきなりそれだけの人がいたら大変でしたね。

中野氏:
そうですね。人数もそうですが、ATM保守の部隊を連れて行ったときに、その部門の業績が間違いなく悪くなっていくのはわかっていましたから、彼らをどのように処遇するかが難しかった。あとは、営業部隊と開発部隊と保守部隊とでは、社員のキャラクターが全然違います。保守部隊は、基本的に守りの人たちですからね。

岡田:
会社の組織文化がそうなっていくことも考えられますね。

中野氏:
社長も含め、役員の6、7割が保守部隊の人でした。そのとき私は取締役です。ただ、当時の社長が前の会社の保守部隊の企画責任者をやっており、その事業が今後どうなるのかをよくわかっておられた。そういう面で、営業面、企画面を私に任せていただいたというのはありますね。その社長が2006年に前の会社の副社長として戻られて、私が後任の社長になりました。

岡田:
銀行さんもよく契約しましたよね。ビジネスモデルがあって実績があるのだったら別ですが。

中野氏:
今から考えると、決めて頂いた銀行の役員さんは、すごいですよね。全く事例もない中、外資系のIT会社の30代半ばの若造が言っていることに乗ってくれた。とても感謝しています。

岡田:
どんな会社を作ろうと思われましたか。

中野氏:
創業から2006年までは「社員満足度向上」が経営理念でした。親会社はよくリストラをしていましたし、創業時は経営が厳しいですから、社員たちも不安です。そこで、「絶対にリストラをしない。株主やお客さまよりも社員満足度の向上を経営理念とする」ということを会社員に言って、社員たちの不安を払拭しました。
また、2006年に私が社長に就任したときには、社員満足度の向上は変わりませんが、「金融事業と利用者を結ぶ革新的なサービスを提供する」という理念と、「考える・創る・成長する……夢をかたちに」というビジョンを掲げました。つまり、「会社だけでなく、社員の皆さんが自分自身の人生を考え、作り、成長してほしい。会社は、皆さんの夢をかたちにできるような場を提供したい」ということです。さらに2014年からは、「人とICTと発想で、安心と快適と驚きの生活インフラを、地域と世界の人々に提供します」を経営理念としています。

岡田:
社員満足度ということで言えば、正社員(600人弱)の退職率がとても低いとうかがっています。

中野氏:
2016年は1.9%でした。当社のようなシステムを運用するIT企業としては、圧倒的に低いのではないかと認識しています。また、これは今年からのことですが、契約社員の正社員化を積極的に進めています。

岡田:
ATMJグループの目指すもの(DNA)として、①オープンな風土、②起業家精神、③社員(社会)への貢献――の3つを挙げていらっしゃいますね。

中野氏:
年齢、性別、職責、国籍関係なしに、社員が自分の考えをいつでも誰にでも言えるような環境にしたいということです。自分の意見や、やりたいこと、あるいは、上司と違うことを言える環境を作ることで起業家精神ができ、その結果、社員にも社会にも貢献できる会社になるのではないかー? 私は、いつもそのことを基本にして経営しているつもりです。

岡田:
創業当初は大変だったでしょうが、その後は順調に業務を拡大し、ソリューションの領域を広げられていますね。今後は、地方や過疎地で求められる地域住民サービス(ユニバーサルサービス)も提供していく計画だとか。

中野氏:
本当に運が良かったと思います。銀行の役員さんに新しいことにチャレンジをしようという人がいらっしゃったこと、金融機関やメガバンクの統合があったこと、アウトソーシングの時代になったこと、セブン銀行やイオン銀行などができたこと、ゆうちょ銀行との提携ができたこと――。そうしたラッキーなことがないと、とても会社を維持できませんでした。

岡田:
そこで時代の流れやチャンスを的確につかんでいくのが起業家なのでしょうね。

中野氏:
運もないとダメでしょうね。マインドや発想や能力がいかにあったとしても、マーケットがその環境にないと波に乗れませんから。

社員教育とハラスメント対策は「インフラ企業として当然」

岡田:
2009年からは私ども(クオレ・シー・キューブ)の管理職研修を、また、2010年からはハラスメント対策のコンサルティングも導入いただいていますが。

中野氏:
その頃には経営も順調になっていましたし、金融インフラを提供していく企業として、社員に対してコンプライアンスやリスクマネジメント、ハラスメントなどをきちんと教育していく必要を感じていました。

岡田:
毎年、ハラスメント実態調査と社員満足度調査結果などを踏まえて、労務関係の最新情報を役員会で報告させていただいていますが、経営陣に対して私たちが毎年直接ご報告さしあげるような運用をされているのは御社だけです。既に7年たちますね。

中野氏:
当然だと思っています。私たちは、ATMの監視だけでなく、銀行のアフターサービス業務や手形管理・税公金業務などで非常に重要な個人情報も扱っていますので、その責任は非常に重い。そうした研修や対策は、うちにとって必須だと思っています。

岡田:
また、私ども女性による事業提案塾にも毎年社員をご派遣いただいています。この塾は女性に起業家精神を発揮して組織にイノベーションを起こしてほしいという目的で行っていますが、御社では新入社員の方にも起業提案をさせていますよね。会社に入ったばかりの人に、会社の作り方を教えるのはとても面白いと思います。

中野氏:
それは2007年からやっています。私自身が、「日本ATMはベンチャー企業だ。普通の大企業ではなく、ベンチャーの大企業になっていこう」と言っていますからね。私の一番の願いは、社員の皆さんがやりたいことができる会社にすること。その一つの手段が、自分で会社を作ることです。だから作り方を教えてあげる。「3年間で単年度黒字、5年間で累積黒字になるようなビジネスプランを作ったら、会社が2億円まで出してあげますよ」と言っています。今のところ、まだ1個も出ていないですけれどね。

岡田:
会社が社員の皆さんが成長する場を用意するということですね。

中野氏:
成長する場は人によって全然違います。新しいことを考えるのもそうかもしれないし、決められていることをきちんとやるのも非常に重要です。だから、私がいつも言っているのは、「自分がやりたいことを自分で決めなさい。会社がそういう場を与えるから」ということです。「社員の成長する場を提供するのが会社の役目。だから、それに反するようなことがあったら言ってほしい。もし日本ATMがその場を提供できなければ他の会社を紹介するから」と。
幸い、日本ATMは開発から運用、保守、デザイン、企画……とさまざまな業種を持っています。せっかく環境に恵まれているのだから、社員の皆さんには自分の人生を最大限ハッピーにする働き方をしてほしいと思っています。

岡田:
昨年私が書いた本は「自分で選ぶ、自分で決める」というタイトルでした。また私どもの事業は「あなたらしく、自分らしく」いられる組織の支援と私たち自身もそうありたいと願っています。中野社長のお考えと何か共鳴するものがあるよう思えます。今回は貴重なお話をありがとうございました。

(2017年3月、文責=クオレ・シー・キューブ)

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