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ビジョナリー対談臨床心理士エヴリン・フィールド 氏

Vol.06 臨床心理士エヴリン・フィールド 氏

今回ご登場いただくエヴリン・フィールド氏 (Evelyn M. Field)はオーストラリアでご活躍の臨床心理士です。学校や職場のいじめの相談・被害者支援、管理職研修などを実施され、オーストラリア・メディアにもいじめ・嫌がらせ問題の専門家として頻出されています。IAWBH(International Association on Workplace Bullying & Harassment 職場のいじめとハラスメント国際学会)においては、ワークショップの主宰や発表をされ、積極的にかかわられています。
著書に『Bully Blocking at Work』があり、その内容はハラスメント被害に悩む人々の自己救済、管理監督者や指導者に向けたハラスメント防止策と発生した場合の対処法、加害者の特徴など、ハラスメント問題に対応するために必要な知識が網羅されています。

IAWBH(職場のいじめとハラスメント国際学会)概況

岡田康子 クオレ・シー・キューブ(以下、岡田):
お久しぶりですね。デンマーク・コペンハーゲンで開催されたIAWBH(職場のいじめとハラスメント国際学会)でお会いして以来、3年ぶりの東京での再会です。ようこそ、おいでくださいました。

Evelyn M. Field(以下、Evelyn氏):
そうですね。あれ以来、私はオーストラリア・メルボルンからパース近郊に引越しましたが、変わらず精神科医をしています。IAWBH関連では、2014年に開催されたミラノ学会、それからつい先日カナダ・カルガリーで行われたサマースクールに参加してきました。今回の東京訪問は、ちょうどその帰り道です。

岡田:
IAWBHでは、どのようなことが話題になっていますか。

Evelyn氏:
ミラノ学会の主なテーマはメディエーション(調停)とダイアグノシス(診断)でした。参加者は学会を論文発表の場としているリサーチャーが多いので、総じてアカデミックなのが難点です。私としては実務的な仕事に関わっている精神科医やメディエーター(調停者)、コンサルタントなどの声をもっと大きくしたいと思っています。
先日(2015年8月24~27日)、カナダ・カルガリー(マウントロイヤル大学)で行われたサマースクールでは、職場の健康問題や人事に携わる人たちが参加して、心理療法がテーマでした。
何人かご紹介しますと、Dr. Kipling Williamsは「村八分」に関する基調講演をしました。人は無視されたり、仲間はずれにされたりしたときどうなるか、という社会的な痛みに関する研究です。
トラウマ神経生物学を専門としているDr. Janine D’Anniballe は職場のいじめ被害者の研究をしていて、傷ついた脳の構造について話してくださいました。
カリフォルニア大学教授を務めるDr. Matthew D. Lieberman は、身体の痛みも社会的な痛みも、脳の同じ部位が感知しているなど、社会認知神経科学に関する研究を発表されていました。

岡田:
エヴリン先生は、職場のハラスメントに関して、どのようなことをお考えですか?

Evelyn氏:
まず真っ先に思うのは、私たちは職場のいじめについて真剣に考える必要がある、ということです。「たばこは体に悪い」ということと同じように「職場のいじめは組織にとって有害です」と人々に広く知ってもらいたいです。そうして「職場のいじめはビジネスに悪影響を与える」という気付きを促したいのです。職場でハラスメントが起きたとしたら、行為者はその間、仕事をしていないわけですし、被害者も仕事ができません。周りにいるひとたちも、その空気に影響され、全体として生産性や仕事の質は落ちます。職場のいじめが続く事はビジネス上の対価を払わなければいけないことである、脳を傷つけ、人を傷つけるものである、ということを知らしめる必要があると思います。

岡田:
そのための測定方法はありますか?

Evelyn氏:
ひとつは、組織でいじめがどれくらいの費用を無駄にするか計算する事です。明らかなコスト(ハラスメント行為をしているときに働いていない時間、働けない時間、欠勤日等)と隠れたコスト(モチベーションの欠落、職場の雰囲気の悪化等)があります。それは算出することが比較的易しいのではないでしょうか。

ハラスメント問題解決へのアプローチ

岡田:
解決へみちびくアプローチとしてはどのようなものが考えられるでしょうか?

Evelyn:
職場でのハラスメント問題の解決にあたっては、行為者を敵対的に責め立てることで職場のいじめを改善しようとするのではなく、どうしたらよいのかを話し合う、協力的アプローチが大切です。いま、わかっていることは、一人一人が「自分はこれでいいんだ」あるいは「社会での存在価値があるんだ」と感じられることが大事だということです。行為者であれ被害者であれ、誰であれ「お前はダメだ!出て行け!お前はここに属さない。」と言われれば、それは命の脅威となり、トラウマになるのです。
『No Ass Rule』 Robert Sutton という本に書かれているのですが、週に一度でも行為者/被害者に関わらず、全員で話し合う場を設けることも一つです。お茶を飲みながらでもかまいません。自ら扉を閉めてしまう事なく、何が起きているのか知らせ、一緒に取り組もう、一緒に考えよう、という姿勢を大事にしてほしいと思います。
異なる意見を交換する場、話し合いの場は重要です。私が生きてきたオーストラリアでは、反対意見を述べず、黙って口をつぐんで、いつも人に親切に、やさしくしないといけない、と言われます。けれども、それは必ずしもそうではないと私は思っています。時には自分の身を守らなければいけないこともあるでしょう。アサーティブなスキルを身につけ、他人と交渉する/協議をする力を養うことが大事だと思います。
そのように自分が言いたい事、考えている事、感じている事を言う中に、他人のことも配慮し受け入れる“ハッピーポイント”があるのではないかと思います。

岡田:
政府や裁判所など公的レベルでの取り組みとしては、どのようなものがあるでしょうか?

Evelyn:
ニュージーランドでは犯罪をおかした人が、被害に遭った人と同席して、話し合うという取り組みが行われています。Restorative Justice(修復的司法)と呼ばれるものです。オーストラリアでは、その方法が学校にも導入され始め、職場でも導入が検討されています。調停者の間ではハラスメント問題の解決は、早い段階でないと難しいと言われています。そこで検討され始めたのがRestorative Justice(修復的司法)です。ネイティブインディアンやアボリジニなどは座って話し合う文化があります。君はどう思う?あなたはどう思った?と、何十人でも集まって話し合います。

岡田:
それぞれが力の違い、立場の違いがある組織でそれはとても難しそうですね。とりわけ日本は、自分の考えを言わない事が美徳となっていて、文化になっています。

Evelyn:
そうですね、その場合は、マネージャー、傍観者、行為者、被害者にロールプレイなどを通じて啓発し、対処法を伝えるということになるでしょうか。大事なのは、職場のいじめについて人々が理解する事だと思います。今の法のシステムでは、裁かれて、罪をつぐなえばゆるされますが、Restorative Justice(修復的司法)にはその人が心から反省し、謝罪するプロセスが含まれ、被害者と加害者が向き合う場が用意されます。

岡田:
オーストラリアではどれくらいその取り組みが進んでいるのでしょうか。

Evelyn:
オーストラリアでは昨年、Restorative Justice(修復的司法)に関する会議が開かれました。実際にそれを実施できるプラクティショナー、あるいは、そのトレーナーの数はまだまだ少ないですが、対面で進める「修復的司法」は精神的に癒しの効果があるため、調停よりも有効とされています。他の人が周りにいることでより広い視野、自分だけじゃないという、より大きな全体像がもたらされるようです。また、人々が一緒に働く、チームワークを促すものだとも思います。

岡田:
マネージャーが人前で弱みを見せたりすることは、その後、マネジメントをしていかなければならない事を考えると日本では難しいかもしれないです。

Evelyn:
なるほど。とすると、日本では何か問題があったとき、修復行為はどのようにされるのでしょうか?

岡田:
クオレ・シー・キューブでは「ヒアリング代行」という当事者の話を代わりに聞くサービスや、「パワハラ(パワーハラスメント)行為者向けパーソナルプログラム」(自分への気づきと行動変革ワークショップ)を提供しています。実はその人たちも組織から圧力をかけられ、追い立てられていて、病んでいます。

ハラスメント問題では行為者も苦しんでいる

Evelyn:
そうですよね、私も、行為者は苦しんでいる場合が多いように思います。誰もが行為者になる可能性がありますし。たぶん行為者の多くは、自分の行為に気付いていません。行為者に対して、「そういうことをしてはダメだ!」と言うと、そのこと自体がハラスメント行為になり得ます。なので「ちょっと聞かせてほしいのだけれど、部下や同僚が動揺しているみたいですね。知ってますか?」というアプローチがよいと思います。
モラルハラスメントで有名なフランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌ先生によると、いまフランスでは多くの人が保身の状態に陥っているそうです。多くのマネージャーが自分自身の心配ばかりするようになっているそうなのです。これはトップから来ている価値基準です。そのため「もっとやれ!もっとやれ!」と部下をけしかける行為者を責めることはできません。なぜならトップが「やれ!やれ!」と言っているからです。

岡田:
本当ですね、それはまさにそう思います。私どもが提供している「パワハラ行為者向けパーソナルプログラム」は、本人がいかに大変かをまず聞きますし、会社では、たいてい行為者に反省文を書かせていますが、書かされている当人は納得してはいません。

ハラスメント被害者の特徴

岡田:
ハラスメントの被害に遭う方に何か特徴はありますか?

Evelyn:
職場のいじめで被害に遭う人は、社会とうまくつながれないタイプの人が多いように思います。一般的に人は悩んだりすると友だちに相談し、アドバイスをもらったりしますが、そのような友だちがいないように思います。被害者は、私生活で問題を抱えている時がもっとも弱っています。親が病気、あるいは亡くなった、妊娠している、パートナーが失業中こういったことが人々を弱くします。そういうときに誰かにいじめられると、人は傷つきやすいです。また、被害に遭う人たちはあまり出かけない傾向にあります。なので、出かけなさい、と私は伝えます。スポーツ観戦でも劇場でも近くのカフェでも、家族や親戚、ご近所や友だちなどと一緒に出かけなさいと伝えます。
多くの被害者は強迫的で偏執的で、高い期待を持っています。なので、何事も完璧はありえない、と教える必要があります。サイコロを振って、6が出続ける事はないでしょう。もし6が出続けたら、何か仕掛けがしてあるにちがいないと、誰もが思うでしょう。何事も完璧はありえないのです。

岡田:
「何事も完璧はありえない」という考えは一般的に広く共有されているものだと思いますが、にもかかわらず、完璧であらねばならない!という人が出て来るのはなぜなのでしょう?

Evelyn:
自分がこれまで診てきたクライアントを思い起こすと、たぶん母親との関係に問題があるのだと思います。とてもいい母親かもしれないのですが、子供が母親を求めた時に、たまたま忙しくてそばにいてあげられなかったり、いい関係を築く事ができず、子供として安心できなかったのではないでしょうか。あまり詳しくはわかりませんが、子供の脳というのは理想的な世界を描くものなのかもしれません。現実を見る力が備わっていないのです。
ひっきりなしに起こる殺人、レイプ、銃撃事件を見れば、「職場の人々はだれもが良い人だ」と考えるのは現実的ではありません。なので、もしかすると子供は「自分が求めた時にそばにいない母親は完璧ではないけれど、他の人は完璧かもしれない」と思おうとするのかもしれないです。また、もし自分がもっと頑張って、よりよくなれば、お母さんは自分を愛してくれるかも、と思うこともあるでしょう。
学校でいじめに遭う子供たちは、母親に近すぎる傾向にあります。もしかすると母親が不安な状態にあるのかもしれません。大人になっていじめに遭う被害者たちは、母親との関係性がよくないケースが多いです。むすびつきが薄い・・・

岡田:
私の経験では、マネージャー自身がそういう状況にあります。親に対して怯えていたり、職場でも経営陣からプレッシャーを与えられていたり、完璧であれ!と駆り立てられていたりする。また、部下の側も上司に対して「こうあるべき」が強いため、ぶつかる。
会社から処分されてしまったような行為者には、親や人とのコミュニケーションが取りにくい決定的な何かがあるような気がします。マネジメントレベルで、マネジメントのやり方を変えるだけで解決できる問題ではないように思います。

人間には人とのつながりが不可欠

岡田:
最後に、これまで職場のいじめ・嫌がらせ問題に関わられてきて、今、思うことをお聞かせいただけますか。

Evelyn:
そうですね。サイバー・ブリング(インターネットのいじめ)は、今、まさに注目しないといけない問題かと思います。学校で子供たちのしているいじめを見ていれば、それが大人の世界にもやってくることがわかります。インターネットのいじめは、早いうちに法整備をしてルールを設け、サイバー・セーフな環境を準備すること必須です。職場でもスポット・チェック(抜き打ち検査)など、何らかのチェックを実施することが必要なのではないかと思っています。
いじめや嫌がらせの問題については、だれもが容易な解決を求めています。が、そんなものはないのです。心理学者もさまざまな理論を並べますが、それらはどれも大して重要ではないと思います。人が求めているのは「聞いてもらった」「自分の正しさを実証できた」という実感、そして、人生を再び軌道に乗せるためのエンパワーメントなのです。また、私が最近思うのは、彼等は「ああ、それは大変だったねえ。でも大丈夫よ。」と言ってくれるおじいちゃん、おばあちゃんを必要としている、ということです。
友人と出かけたり、音楽を聴いたり、ジムに行って体を動かしたり。社交術を身につけることも大事です。社会に属していないと、自身のinner core(中心・軸)はしっかりしません。
乗馬では、乗り手が怖がっていたり、何がしたいのかをわかっていなかったりすると、馬は言う事を聞かないそうです。乗り手がセンターの状態にある時、inner coreがしっかりしている時、馬は言う事を聞くのだそうです。
また、トラウマを生き残る人(例えば、ホロコーストの生存者)は、よく集まってパーティーをしています。大きなトラウマを抱えていますが、ネットワークがあるから生き残れるのです。耳を傾けること、共感することが大事です。人間には人とのつながりが必要なのです。

岡田:
今は薄れているかもしれませんが、日本では昔から、つながりを大切にする文化が伝えられているように思います。inner coreは、日本では「道(どう)」に当たるかもしれないですね。自分の中に芯を持つことで、周りをコントロールする、そういう精神性を求めてきたように思います。
エヴリン先生、今日はありがとうございました。是非、次回のIAWBHでは私の体験をお伝えしたいと思います。

(2015年9月)

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