国としては一回だけのパワハラ行為もダメ、という認識なのでしょうか?
- Q今年3月に発表された厚労省の「職場のパワーハラスメントとは」の提言には、以前からクオレ社で使っている【継続的に】という文言がありません。国としては一回だけのパワハラ(パワーハラスメント)行為もダメ、という認識なのでしょうか。また、【人格や尊厳を傷つける言動】という言葉も入っていないことも気になります。
- A確かに、今年3月15日に報道発表された「職場のパワーハラスメントの予防・解決にむけた提言取りまとめ」の中では、職場のパワーハラスメントの概念として、「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」という文言になっています。弊社が以前よりパワハラの定義として提唱してきたものと、さほど大きな違いはありませんが、キーワードとしてきた【継続的に】と【人格や尊厳を傷つける言動】という言葉は見当たりません。
【継続性】については「円卓会議ワーキンググループ報告」の中に、解説として記載されています。概念と同時に発表された「職場のパワーハラスメントの行為類型」(下図参照)に関する解説の中で、「何が業務の適正な範囲を超えるかについては、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望ましい。」と記載されており、個別のケースがパワハラかどうか判断する場合には、継続性も合わせて検討する必要があるとしています。そして、この行為類型そのものが、弊社がパワハラの定義に盛り込んだ【人格や尊厳を傷つける言動】を指すものといえます。
特に、上図の4~6については業務との線引きが難しく、個々の状況や継続性を見ていく必要があるとしているのですが、1.(暴行・傷害)のように、明らかに1回でも指導とは言えないパワハラ言動ならともかく、2.(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)や3.(隔離・仲間外し・無視)に当たる言動については、その行為の幅はひろく、1回ではパワハラとはいえないもあることでしょう。そのため【継続的に、あるいは意図的に行われているかどうか】という視点を盛り込む必要があると、私たちは考えています。私たち一人ひとりが感情を持つ生身の人間であるため、部下指導の際に時々声を荒げてしまったり、期せずして相手を傷つけてしまったりすることも、充分起こり得ます。また、「無視」にいたっては、声を掛けられたことに気づかず、たまたま返事をしなかったということも考えられます。そのため、2003年に私たちが提言したパワハラの定義には、【継続的に】という言葉をあえて盛り込んでいました。それは現場の当事者の声を集めた結果であり、弊社では今後も継続性の重要さについて訴えていくことにしています。
今回の提言を受けて、就業規則にパワハラ防止条項をいれることを検討中の企業も増えています。その際には、厚労省の定義をそのまま導入するのではなく、自社にあわせた規定を作ることをお勧めします。厚労省では現在実態調査を進めおりますが、それによって定義や行為類型が変更される可能性も考えられ、それも視野に入れて、柔軟な解釈ができるような規定にしておくとよいでしょう。その際に、【人格や尊厳を傷つける行為】という私どもの定義に入っている文言はパワハラ行為を網羅しており、なかなか使い勝手がよいのではないかと考えています。
(2012年)
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