ハラスメント相談の現場からVol.66 『隙間』は埋めないで!

Vol.66 『隙間』は埋めないで!

「ぼーっと生きてんじゃねえよ!」とあらためて喝を入れられるまでもなく、緊張を強いられる日々を過ごしている私たち。長期化するコロナ禍に加え、猛暑だ、熱中症だ、と連日のニュースで口々に連呼されると、いったい何にどう気をつければ良いのか、かえって頭が混乱し、ぼーっとしてくるのではないでしょうか。

営業管理職Aさんは部下の姿を見かけると、「ちょっとした時間もムダにするな」、「ぼやっとしてちゃダメだ」と発破をかけるため、部下の間で密かに『チコキチ』と渾名されていました。

Aさんには、つねに幾つもの案件が同時多発的に頭の中を駆け巡っているところへ突如、新規案件が横入りするのを立ち止まることなく短時間でせわしなくまとめながら、打ち合わせ、会議…、と次々ハシゴするのが当たり前の日課となっていました。Aさんの頭の中は『隙間』なくびっしりと埋め尽くされていて、たとえて言えば見事に完成したジグソーパズルのごとく立錐の余地すらない状態であり、時間的にも身体的にもそれは同様だったはずです。

コロナ禍で業務量が減りテレワークが増え数週間が経った頃、Aさんの頭にふと「これまで部下一人ひとりの顔を正面からちゃんと見たことあったっけ?」という、素朴な疑問が浮かびました。皮肉にもAさんの場合、直接、顔を合わせてやりとりしていた以前よりも、画面越しに部下と対面している今の方が相手の表情を読みとることができるようになっていました。仕事以外にも気づいたことがありました。これまで当たり前のように食卓ではテレビの音声に耳をそばだてつつ仕事メールをチェック、時にその場で返信もし、その隙にせわしなく箸を口へ運び、食事を味わうどころか家族とまともに向きあって会話してこなかったことに。

ここでいう『隙間』は、『余裕』あるいは『ゆとり』という言葉に置き換えることができます。複数の物事を同時進行させる時間の活用法は合理性において格段に優れていますが、余裕がない分、柔軟性では引けを取ってしまいます。物ごとをとらえるポイント、考える視座が非常に制約されているため、物理的に視界に入っていても念頭にまで立ち入らず、アイディアが広がるチャンスがないのです。Aさんの感じた「?」という新鮮な発見は、これまでの生活にはなかった『隙間』がもたらした貴重な成果と言えるでしょう。

何もしない、何も考えないで頭を空っぽにする時間こそ新たな発見の源。あえて隙間を埋めない、むしろちょっとした隙間を生み出す日ごろからの工夫が大切です。

(株)クオレ・シー・キューブ 志村 翠 (2020.09)

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